ロボットとの次元の違うセックスは人類をフルスピードで絶滅させる?

 WSJの記事https://twitter.com/WSJJapan/status/593037038917582849から
 数年前に書いた雑誌『m9』に寄稿したものを思い出したので以下に再録。

 このままの人口減少のスピードが続くと、1000年後には日本人はこの世からいなくなる計算だという。「死ね死ね団」も無理してレインボーマンと戦いながら日本人を絶滅させるよりも、気長に構えていれば確実に問題は解決(?)していくというわけだ。しかし本当に日本人はいなくなるのか? 例えば外国から移民をたくさんいれればいいじゃないか、あるいはいつか特殊合計生率(生涯に女の人が子どもをもつ割合)も底打ちして回復するんじゃないの? と思われるでしょう。その通り。実際に将来の人口がどうなるかなんて正確にはわからない。そもそも1000年どころか、10年先の日本がどうなっているのか誰も自信を持って断言できるわけではない。

例えば戦前(1945年夏以前の戦争ですよ)では、人口増加の恐怖の方が先行していて、そのためにアジア諸国への進出が正当化されていた。食料の生産よりも人口増加の方が上回るので、やがて生まれても食べるものに事欠く世界になるだろう。これを学者たちは「マルサスの罠」といった。このマルサスの罠を回避するために、世界にうってでよう、と国家をあげての一大キャンペーンが行われたのである。そのときは人口が1億人を超えるところが危ない、と宣伝されていた。それがいかにバカらしい心配だったのかは今日の日本をみれば一目瞭然だろう。

もちろんこのプロバガンダに抵抗した人もいた。人口増加の恐怖が特に強く宣伝された頃の日本は、ライフスタイルがアメリカ化して都会の男女はモダン・ボーイ(モボ)、モダン・ガール(モガ)といわれたものである。よく知られている事実であるが、女性がコスメやファッションに懲りだすと子作りへの関心が低下して、さきほどのマルサスの罠から脱出してしまうのである。日本でも同様に都市部を中心に出生率は低下していったのである。ちなみに当時でもオタク、腐女子がいて、彼らはマルクス・ボーイ、マルクス・ガールといって、やはり子どもをつくるよりも脳内革命行動に忙しかった。

 また日本が大陸進出をする費用と便益を計算すると、海外との交易を盛んにして不足する資源を購入した方がよほどいいよ、とアドバイスした人もいる。しかしこういった冷静な主張は、政府が旗を振ればたいていは無視されてしまうのである。しかし大陸進出の帰結が、戦争による人口の強制的減少だったとすればこれは実に危険なキャンペーンだったことがわかるだろう。

今日の年金破綻の議論の類も実はこの1000年先の日本人滅亡論と同じ前提(出生率の推計など)で議論されているのは意外と知られていない事実である。もっともさすがに1000年先というとまずいので、人間の寿命を理由に100年くらいで話を切っている。しかし100年先も1000年先も脳内世界という点ではほとんど変わらないだろう。この脳内世界を日本だけでなくアジア全域にまで拡大するのが最近のファッションなのだが、そうなるとインドやバングラデシュなどほんの数カ国以外は、ほとんど1000〜2000年先には全滅してしまう。人口大国中国でさえもやがて消滅してしまうのである。これはどんなにもっともらしく装っても基本的にアホらしい議論である。何十年も先の心配をするよりも、とりあえず子どもを育てやすい環境をつくるために補助金や減税対策でも行えばいいのに、大抵は赤字財政を理由に拒否されてしまう。そもそも人口減少が年金や財政赤字を深刻にするといっていたのにそれを防ぐことも赤字だからだめ、というのは何がなんだかさっぱりわからない。

ところで日本では移民の受け入れによって、社会で実際に働く人たち(生産力人口という)の減少を防ぐべきか、という議論が政府を中心に白熱している。従来の熟練労働者や高い専門的知識をもった人たちだけではなく、未熟練労働者も大幅に受け入れるべきだ、とする意見が台頭してきている。

しかし国民の多くのコンセンサスは移民の受け入れに慎重だ。例えば国際的な通信社ロイターが配信した記事「ロボットが350万人分の仕事を行う日本」では、日本は移民を大量に受け入れるよりも、ロボットの導入によって未熟練労働者の不足(2025年で350万人の穴埋め)を補う方向であるとしている。この記事に対してハーバード大学教授ジョージ・ボージャス教授が、彼のブログで移民とロボットどちらがいまいる国民にとって利益があるのか、と問題を提起している。移民を過度にいれると社会的な摩擦が生じやすいことはいくつもの事例が証明している。

では、ロボットの導入で本当に人口減少(生産力人口の減少)を防げるのだろうか。最先端のサブカル研究では、ひょっとしたらロボットの導入を加速化することが少子化をさらに深刻化させる可能性が明らかにされている。ディビッド・レビィという国際的なコンピューター・チェスの名手が書いた『ロボットとのセックス+ラブ』という本が話題を集めている。これは猛スピードで人類はロボットとのセックス時代を迎えるであろう、という予言と実際のノウハウを収録した本である。日本のサブカル界でも長く、ロボットとの愛やセックスは普遍のテーマとして存在した。コミックをみれば、松本零士の『セクサロイド』、石ノ森章太郎の『セクサドール』など名作が多い。実践をみてもかの南極一号を始めとして、今日のラブドールまでその技術水準は世界最高レベルであろう。最近話題を集めた高月靖『南極一号伝説』(バジリコ)を読めば、そこにでてくるオリエント工業のシリコン製のラブドールの愛くるしさにクラっとこない人は稀だ。もし彼女たちが最先端のロボット工学と連動して大量生産されたとしたらどうなるだろうか。家に帰宅して「お帰りなさいご主人さま」とやられてしまったら、ほぼ間違いなく日本人男性の大半は「むしゅめにミーモする」となって日本人絶滅の加速化は必死である。経済学の法則を適用しても、人間に等しいラブドールの方が生身の女性よりも機会費用が低いためこれを抑止することはできない。もちろん女性だって完全彼氏を購入するかもしれないから日本人絶滅のスピードはさらに早くなる。他方で人口減少のマイナス面を防ぐために、さらに一層のロボット人口の増加を促していくだろう。そうすると1000年後には日本人絶滅は免れているだろう。もっともそのとき日本の大地に立っている「日本人」は、ガンダムラブドールかのいずれかである可能性が大きいのだが。