中国からの生産拠点国内回帰の動きと円安効果

 国内製造業 脱中国で国内回帰が鮮明 TDK、中国生産の3割を国内に切り替えへ(産経ニュース)
http://www.sankei.com/economy/news/150107/ecn1501070007-n1.html

 いい傾向だと思う。日本の多くの人は中国の労働者との競争の結果、国内の雇用が失われている(向こうの方が割安だから)、という「中国との国際競争の結果、日本が貧しくなってる説」というものを信じ込んでしまっている。しかし実際に起きていることは、日本のデフレ放置、それがもたらした過度な円高が長期に継続したことで、日本の企業が中国など海外に生産拠点をシフトして、その結果、国内の雇用が奪われてしまっているのだ。この人的な経済機会の損失は長年にわたり膨大な金額になっただろう。

 数年前に保守系のメディアに出始めたときに、そこでは(いまも円安批判をしている公共事業が好きな経済評論家たち中心に)この「円高の病理的現象」(=円高シンドローム)に対する認識はまったくなく、むしろ感情的な判断から中国との断交や「中国と取引すると損」といったゼロサム的発想のみが蔓延していた。もちろんこの傾向は保守系以外にも広く蔓延していることは冒頭でも書いたが。

 そのような保守系の言論風景に対して、円高シンドロームが日本の人的富を損失させていると、主に右派・保守層向けにいち早く解説したのが、倉山満との以下の対談である。なんども書くが保守界隈ではこれが最初期の指摘である。正直、金融・国際金融の無知は甚だしい状況だ。いまも基本変わりなく、円安批判などを展開している自称保守論客は多い。彼らは本当の保守なのだろうか?

『特対:これが真のナショナリズムだ?』田中秀臣・倉山満
https://www.youtube.com/watch?v=pifAcH-XDl0 全部で四回あるのでぜひすべて見てほしい。

 ちなみに為替レート水準の円安への「是正」が、日本の生産拠点の国内回帰を促すという主張は、われわれリフレ派は、上記の動画の段階に遥かに先んじて90年代、あるいは00年代から行ってきたものである。例えば、2009年に出された飯田泰之雨宮処凛『脱貧困の経済学』(自由国民社、現在、ちくま文庫)では、以下のように、当時では110円台から120円が円高シンドロームを正す水準であるとまるで今日を予言するような発言を飯田さんがしている。

「なんといっても、企業が海外に移転した大きな理由は円が高いからです。たとえば1ドル120円ならば、日本の労働者は世界指折りの優秀な労働力といえる。たとえば、月給20万円の労働者の賃金はドル換算で約1600ドル。日本の労働者をこの価格で雇えるなら、海外に移転なんてしないわけです。しかし、1ドルが80円となると2500ドルです。こうなると質の面は目をつぶっても海外で、ということになる。他国に奪われたというより、円高のせい。製造業が中国に移転した理由は、円が高いからです。僕は1ドル110円くらいが良いバランスかな、と思っています(田中注:あくまでも09年当時の飯田さんの推察。この水準にこだわることなく今の経済動向から考えるべし)。いまみたいに1ドル80円になっちゃうと、海外にいけば労働力も原材料もなんでも安い。略 製造業の人から聞いたのは、1ドル100円より安くなると日本人の方がいい。それ以上円が高いと、「質の良さ」だけでは相殺されない差額になってしまうそうです。1ドル110円台が常となれば。日本企業は中国から総撤退すると思います」

いまの日本では1ドル110円台から120円台前半ぐらいが望ましいだろう(経済情勢で変化するのであくまで目分量だということを再三指摘しておく)。

脱貧困の経済学 (ちくま文庫)

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デフレ不況 日本銀行の大罪

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