中原昌也「すき家、マルクス、ブラック企業」in『新潮45』八月号

 すき家問題についてはさほど関心がなかったのだが、この中原氏のエッセイは、すき家問題を簡潔かつ鮮明に描いている好エッセイだ。ゼンショーの小川賢太郎社長の経歴を『日経ビジネス』の記事などから本人に語らせる手法をまずとっているのがいい。

「略 「やはり資本主義社会であるから矛盾がある」と考えて、「社会主義革命」を起こすべく東大全共闘に入り、港湾会社に入って「革命的」労働者を組織した。労働者に一目置かれるまで、死ぬ思いで働いて3年かかったという。すごい勢いだが、「底辺」に目をつけるところは学生時代から一貫しているようだ」

と鋭い指摘をしている。過去の全共闘の闘士で、マルクス主義に影響をうけた人物がやがて「ゼンショー=全勝」によって、「人類を飢えと貧困から解放する」ことを目的に、徹底化したマニュアル化と過度な効率化を追求する果てに、「「すき家」が「ワタミ」と並ぶブラックバイトなのは常識である」という今日の評判にまで雪崩れていく様は中原氏の筆致はさえている。

 また吉野家すき家の味の変動を中原氏が自身の経験を踏まえて書いているのも面白い。マルクス主義におぼれた人がそこから必然的にブラックな経営に陥るのか、それとももともとブラックな経営をするマインドがマルクスを通過したにすぎないのか、そこはこのエッセイを読みながらちょっと気になる論点ではある。

第三者委員会の調査報告書
http://www.sukiya.jp/news/tyousahouoku%20A_B.pdf

新潮45 2014年 08月号 [雑誌]

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