経済思想史研究者の内田義彦の生誕100周年を記念して、彼の著作集未収録や、読みやすいエッセイや対談を中心に編まれた二冊の本の新装版がでた。特に『形の発見』は版元品切れだったのでとても助かる。
内田の経済思想を僕は彼の音楽論との関連から最近簡単なエッセイを書いた。来年の没後20周年の記念論集に収録されるはずだ。内田の音楽論は、経済思想のとらえからからかれの社会を見る眼にまで通底するものをもっている。このふたつのエッセイ集にも内田の音楽論がその断片的な発言も含まればまさに無数に収録されている。
もちろん内田は音楽論の専門家ではない。しかし内田は専門家ではない=素人のモノを見る眼を重視している。
「学問だって、何か作るには既成の学問、学界の常識とか通念から脱出しなきゃならない。それは素人の眼ですね。素人の眼で既成の学門から脱出して、しかし新しく玄人として作る。素人の眼というのは玄人になるための必要条件だし、素人の眼を持ちつづけ得るのが玄人じゃないでしょうか」(『形の発見』37頁)。
この「素人の眼」への論議は、内田においてはルソーの自然人の議論やスミス、マルクスともつながる重要な問題だろう。また彼の大病後の臨床的視座、さらにはそれと関連が或る「いま=ふくらみをもった瞬間」「現実というインチキ」などとチェーホフ論との関連などいくつもの未整理な論点を考えるべきときかもしれない。
文化と経済の関係を日本の経済学研究者の中でも最も深く考えたひとりの人物の思索のあとを知る上でも重要な本である。

- 作者: 内田義彦,江藤文夫,丸山眞男,木下順二,野間宏,大江健三郎
- 出版社/メーカー: 藤原書店
- 発売日: 2013/11/21
- メディア: 単行本
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