西森路代『K-POPがアジアを制覇する』

 K-POPに焦点をあわせてはいるが、日本、韓国を中核にしたアジアのアイドル市場の変化を描くことにも注意を払っている意欲的な著作だと思う。本書が特に精彩を放っているのは前半であり、例えば日本のアイドルと韓国のアイドルを比較した箇所はとても勉強になった。例えば「フック」(人が生理的に反応してしまうようなメロディーや歌詞を意識的に多用している曲」と「ハイコンテクスト=お約束の多さ」で、日韓のアイドルを比べている。

 西森氏によれば、日本のアイドルはハイコンテクストが必要不可欠の条件だが、そこにフックもまた両立しやすい。特に日本ではハイコンテクストの中に、ファンが「育てる」という要素が入っている。韓国ではフックが必要不可欠であるが、最近では日本的なハイコンテクストをもつアイドルも登場してきた、という指摘とその実例は興味深い。

 女性アイドルに傾斜している僕の好みからいうと、東方神起についての本書の記述は知らないことが多く参考になった。多様な話題が縦横無尽に展開しているので読んでいて飽きないが、あえていえば第4章の文化論的なところはやはり全体から浮き出ていて読みずらかった。また参考文献をまとめているところは立派だが、ここも注文したいことがある。まず刊行年が未記載であること、雑誌中の記事は慣例的には「」で括り、単行本の『』括りと分けるのが望ましいだろう。それといくつかの論点がかぶり、また先行する著作(例えばありていにいって僕の本 笑)が登場しないのは少し残念なことである。

K-POPがアジアを制覇する

K-POPがアジアを制覇する