実家の近い調布の真光書店で文庫を買うと、水木しげるのゲゲゲの鬼太郎たちが描かれた特製のカバーをつけてもらえる。そんな本屋で目についた『芸術新潮』と拡充再版された足立倫行『妖怪と歩く ドキュメント・水木しげる』を購入。
特に前者はまだ独立した絵画家を目指していたころの水木しげるの若いころのデッサンや絵、それに紙芝居などの貴重資料が収録されていて、これは絶対保存用に買うべし、の一品だと思った。
ところで梅原猛とご本人の対談は、あまり面白くなく、むしろ本特集の中核は、水木プロで資料作りをしたこともあるという呉智英氏の一問一答形式の実に資料と合わせて36頁の企画。足立氏のドキュメントでよくつかめる水木しげる氏の個性と併せて、やはり芸術家から偉大なマンガ家としての水木像を多層的に話していることがこの特集の素晴らしさだと思う。全然知らないことも多く、とても勉強になる。
手塚治虫以外の戦後マンガの伝統というのが、非常に過小評価されている気がしてきた中で、最近行った世田谷文学館での長谷川町子との“再会”と合わせて、この水木しげるブームも、戦後における日本のマンガの同時的多発革命的な様相を知る上でいい機会に思えた。少なくとも僕には。
呉は以下のように水木しげるのマンガ史における位置づけをうまくまとめている
「紙芝居、貸本、雑誌と、現代マンガの三世代をすべて経験しているということ。しかも、いまだに現役作家である。長い生きも芸のうちと言いますが、これはすごいことです。さらに、絵が誰の影響も受けていない。冒頭で指摘したことと矛盾するようですが、絵の系統としてはだれの弟子筋でもない、完全に水木さんのオリジナルといっていい。そして作品内容としては、「歴史の重層性」と「マージナルな者への眼差し」こそが、水木マンガを貫く大きなテーマといえるでしょう」
この「冒頭で指摘したこと」というのは、貸本マンガにおける第一作『ロケットマン』(1957年)における高野よしてるや馬場のぼるの影響。ただしそのときでも呉は、水木独自のとぼけたユーモアに注目している。
私見では、水木の無常観や歴史の重層性とも関連するが、水木の描くマンガの「肉体」は、ある意味で不死であり、ゾンビ化している。この不死性というものによって、手塚的なマンガの造形と一部は切り結ぶが、永遠に異なる世界をも生み出しているように思える。
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ちなみに僕の好きな水木作品は、『総員玉砕せよ!」、『墓場鬼太郎』(特に鬼太郎が赤ちゃんのときまでが物凄く怖い)、『悪魔くん』(貸本版)。