長期インフレ率をめぐるイエレンの発言

 アメリカの中銀の政策当事者たちから長期金利の高騰、長期期待インフレ率上昇を懸念する市場の声に積極的にコメントしています。典型的には次のジャネット・イエレンの発言でしょう。

http://www.frbsf.org/news/speeches/2009/0605.html

 長期のインフレ目標をいままでFedは議論を重ねてきたが、(イエレン自身が好ましいと理解している)1.5%のインフレ目標(事実上の暗黙のFedのターゲットでしょう)を再検討する余地がでてきた。インフレ目標を考慮する上では費用と便益の両面でみる必要がある。今般の不況でも低インフレの便益には変化はない。しか費用面では考慮すべき点がある。Fedは日本のデフレ(ゼロ金利)の経験を研究してきた。その研究からいえることとして、(ゼロ金利に直面した経済からの離脱を考えると)低すぎるインフレ目標は好ましくないのではないか、ということである。そして(不況脱出の過程では)たかめのインフレは害が少ないということもそれらの研究では示唆されているとしている。ただイエレンは過去の経験がこれを裏付けるものであるかいまいち判断保留状態。ただFOMCのメンバーは2%のインフレ目標が、米中銀の二つのミッション(物価安定と最大限の雇用の維持)と整合的だと考えるようになっていることも理解できる。

 イエレンはすでにGreat Moderation(大安穏)は去ったという認識。これはまあ、そうだろう。今回の途方もないマイナスのショックによって、中銀の従来の政策は従来のパラメーターを前提にしては誤ってしまうのと同義だろう。イェレンは明示的にここで議論はしていないが、Fedが長期的なインフレ目標を設定し、政策レジームの変更を目指すべきだと言外にいっているのではないだろうか?

 もちろん彼女が少し書いているように、世界貯蓄過剰は基本的に変わらない可能性があるので、それで長期実質利子率が低位安定になるというラッキーな面もこの不況の後もありかもしれないが、やはりこれまたはっきりとはいっていないが、明示的なインフレ目標にコミットすることで、新たなるgreat Moderatiomを目指すべきなのだろう。