内藤陽介『切手が伝える仏像ー意匠と歴史ー』

 僕は内藤さんの著作のファンである。今回もご恵贈いただいた本をみて、「おお!」と驚いたのである。なぜなら僕も内藤さんと同じく、そして多くの切手少年・少女たちと同じように、日本の仏像切手に魅せられたひとりであるからだ。日本人は仏像切手が大好きである。そうでないと中宮寺の木造菩薩半跏像が長く普通切手として愛好されたという事実が説明しにくいだろう。僕の場合、さらに切手を超えて、たぶん当時の若い人のいくばくかが感染していた仏像めぐりの趣味の陥り、中学生のころから大学初年の頃にかけて埼玉の川越から修学旅行でもないのに、何度も仏像見学に関西方面にでかけたものである。もちろん和辻の「古寺巡礼」はお決まりとして熟読である 笑。

 そういうわけで、信仰としての仏教ははるか脇に置きつつ、完全に美術的な愛好癖としての仏像鑑賞(鉄男ならぬ仏男??)は、20代の真ん中あたりで円空仏への関心でピークを迎え、それからしばらくは、仏像への関心は遠のいている。今回、この本を一読してまずは仏像切手の美しさに感動したということである。本書の背景色を黒に統一したのも、仏像のもつ静的な美しさを表現するのに貢献している。そしてアジア中心の諸外国がいかに自国の文化的・宗教的な遺産として仏像を愛しているかが、切手という小さい宇宙の中にも見事に表現されている。

 本書を読むとアジア文化圏での仏教とそこでの仏像の位置づけがコンパクトにわかることも、内藤さんの一連の本と同様に歴史的教養を学べる点で素晴らしいと思う。僕も仏像は好きなことはいま書いたとおりだが、内藤さんの蘊蓄には学ぶところが多かった。特に本書は仏像以前の遺構にもこだわっているのが、内藤さんらしい目利きのよさを伴うものに思える。

 

切手が伝える仏像―意匠と歴史 (切手で知ろうシリーズ)

切手が伝える仏像―意匠と歴史 (切手で知ろうシリーズ)