阿部重夫FACTA編集長の白川方明『現代の金融政策』書評


 するどい読み。白川氏の本の読解としては最も本質を突いたものに現行ではなっているでしょう。


日銀新総裁・白川方明氏の新著を真剣に書評する
http://facta.co.jp/blog/archives/20080409000651.html

量的緩和が奏功して「デフレ・スパイラルは生じなかった」という結論は是としても、では、デフレから日本は脱却できていたのか、という本質的かつ喫緊の問いに本書は解を与えていない。上方バイアスなど「デフレの糊代」を否定し、物価上昇率0〜2%の下限を目標としたかに見える福井日銀のレールを、白川氏も踏襲するのだろうか。

答えは本文でなく、巻末の引用文献にある。伊藤教授ら日本のターゲット論者の主要論文はほとんど挙げられていない。海外の文献はバーナンキFRB議長やウッドフォードらターゲット論者のものまで満遍なく網羅されているが、辛らつに日銀を批判したプリンストン大学のラース・スヴェンソン教授の「フールプルーフ(阿呆でも分かる)論文」(正式題名は「金融政策と日本の流動性の罠」)がなぜかない。

不在の影によって輪郭が浮かびあがるようでは、本書は「日銀のための日銀による日銀の教科書」と思われてしまう。「通貨の番人」の城砦に籠らず、ポレミークの野戦に打って出る自律性あればこそ、真に独立した中央銀行ではないか。: