日本の経済学と天皇制、アイデンティティー、暴力:四方田犬彦『日本映画と戦後の神話』


 四方田氏の最新の映画評論のちゃとした感想は韓流ブログの方で書くとして、この評論集は難解な箇所もあるが面白いものだった。特にソクーロフの『太陽』をめぐる論説などであらためて、こと日本の経済思想上の問題として、天皇制、日本人のアイデンティティー、暴力性、民族的多層性などの論点が、戦前までの偉大な経済学者の多くが問題にしていたのにも関わらず、戦後は一貫して消失してしまったことを常々深刻な問題に思っていたのでその関連からも刺激的だった。いま大雑把に列挙した論点は、戦前の経済学者でいえば、河上肇北一輝柳田國男、大熊信行、難波田春夫らが合理的思惟の対象として論じてきたものだった。いまでは日本の制度的経済学あるいは日本経済学などと標榜していてもこれらの論点に触れるものを見たためしがない。もちろん近代だけではなく江戸期にまでこの問題を延長することは可能だろうし、ひょっとしたら大塚久雄の中でまだ開拓されていない論点としてこの問題があるのかもしれな(特に彼自身の宗教意識の論点として)。そんなことをこの刺激的な評論集を読みながら思ったのである。例えばアマルティア・センの『アイデンティティーと暴力』などの著作と関連させて論じれば面白い研究になると思うのだが。


日本映画と戦後の神話

日本映画と戦後の神話