FRB、公定歩合引き下げ。


 バーナンキFRB)、従来の主張通りに市場の予想を上回る(スピードと水準の両方で)果断な対応をしたわけです。市場も好反応ですね。問題はあとはサブプライムに関する情報開示という技術的な問題との耐久レースですか。


 これで日本の利上げは常識的には99%なくなりました。1%は日銀組織マターとして残存。ECBの方も微妙な展開になりそうな予感。


 それと非常識的には逆に利上げの可能性がかなりあるかも。昨日のコメント欄に書いたけれども冗談ではなく週明けに武者「鋭角的」路線が実現したら、日銀は針の穴を通す意図をもって利上げ貫徹するかもしれない。なぜならば上記の常識ケースの1%日銀マターにもかかわるけれども、現状の最終着地点(加藤出予測プラマイ0.25%)を福井氏退任まで実現するにはほとんど時間的余裕がなくなるから。


 しかもFRBの利下げ転換がこのまま終息する可能性は少なく、バーナンキ一派の理論的背景を考えると(サブプライムの情報公開などの不安材料次第で)市場の予測を裏切りつづけて加速度的に利下げ路線継続の可能性の方が大きいのではないか? 


 するとFRBのFFレート下げの可能性の多寡をどう判断するかによって、追い詰められた(笑)日銀の非常識ケースでは早期の利上げが来週緊急を要してくる可能性を否定できず。ここで日銀といまや政策対応では兄弟関係にある(笑)ECBや、キャリトレで悲鳴をあげているニュージーランド、オーストラリア南半球勢の動向もかなり気になる。


 中国に関してはやや超越的にいえば、これで北京オリンピック後の不況入りはほぼ確実でしょう。経済の過熱抑制に失敗。


以下、各主要ブログそのほかの反応を追記予定。


●日本のエコノミストの反応(上の僕が日銀の常識ケース対応として書いたことと、今後のFRBの市場予測上回りケースでいうと、上野さんと吉田さんの見方を合わせたものになるのかな)

ロイター(識者に聞く)

http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-27445120070817


●上野泰也「市場観測」:早読み『週刊東洋経済


 月曜に出る東洋経済に上野さんが寄稿。基本的には上のロイターのコメントの通り。今後の日銀の利上げ見通しのまとめ。9月は国会の政治緊張度高しで日銀の利上げハードル高し。12月では予算編成の観点で長期金利への影響避けるため不可。2月は予算案審議中。3月は期末。というわけで可能性として高いのは、政治ハードルを飛び超えれば秋口以降、そして来年1月。


 さらに為替見通しについての上野さんの見解。FRBの利下げスタンス(この原稿を書かれた時点でのもの。現状ではこの利下げスタンスはさらに信憑性もつ)が円高ドル安に貢献(プラス大統領選効果も同じ方向に寄与)、ECBの利上げ・豪州の高め金利維持の各通貨対円レートの今後は短期的には現状維持。しかしユーロ高円安も「そろそろ終盤」(=ユーロ高の製造業などへの影響勘案)、という見通しを上野さんは立てています。詳細やそのほかの興味深い論点は同記事を参照してください。


●米国経済系ブログの反応

(1)Noutriel Roubiniのブログ

 http://www.rgemonitor.com/blog/roubini/211152

 悲観派の代表。積年のFRBへの批判的態度を全開にするかのような「勝利宣言」w。今回の公定歩合引き下げを単なる(本ブログでいうところの擬似的)金融危機対応としてはとらえずに、マクロ的な金融政策のスタンスが経済成長への下振れリスクを勘案して方向転換(サブプライム問題のソフトランディング認識からようやくハードランディング認識への転換)したと判断。

 そしてFRBの認識はまだまだ甘く、信用の逼迫が消費・投資に悪影響を与え本格的な不況が襲来するだろうと予測。これに対してFRBはなすところありや? すっごく見込み薄、とこれまたFRBに冷たい判定をRoubiniは下しております。


 理由は、1)近い将来にFFレートを大幅に切り下げても、現状の課題は単に流動性リスクの問題ではなく、債務不履行の問題(家計、貸し手側の不良債権問題)であり、利下げはこの不良債権処理には効果は期待できない。2)市場関係者の投資スタンスは危険回避的すぎて解消しないだろう、3)耐久財消費や住宅購入、自動車購入に利下げの効果は大してない。


 ゆえに、いまさらリスクを評価しても遅い。すでに米国経済のハードランディングは不可避だ。


 まるでなんか米国経済非常事態宣言みたいで、どこかの国の有名エコノミストを思い出してしまいましたが。


(2)Charles Wyploszの論説(VOXより)

 http://www.voxeu.org/index.php?q=node/479


 FFレート一定での公定歩合引き下げを、金融政策スタンス一定(=石油価格要因でのインフレリスク重視)のままでの市場における信用リスク緩和の方策として認識。


  さて、米国の公定歩合(今回はFFレート一定で、公定歩合だけ下げた)について簡単な説明が必要かと思いますので、以下、『アメリカの高校生が学ぶ経済学』(WAVE出版)から学術的引用して解説に代えます。

中央銀行として、地区連銀は他の金融機関に貸し出しを行う。公定歩合ー地区連銀が金融機関に対して貸出を行うときの金利ーは重要な金融政策である。銀行が地区連銀から資金を借りる理由は2つある。一つは、MBR(加盟銀行準備預金。地区連銀に各金融機関が積み上げている準備金)の予期せぬ減少によって余剰準備が不足したときであり、この場合、銀行は地区連銀から不足分を補う短期融資を受ける。もう一つは、」季節需要に応えてのもの、「窓口貸出しは、金融機関が利用する地区連銀の窓口でMBRを借り入れることだ。ただし、融資の条件は、銀行が実際に資金を借り入れる前に行う。次に、金融機関は窓口で借入れの返済を保証する資産や証券を担保として差し出す。そしてすべてが整ったら、地区連銀から貸出が承認されて、MBRに資金が入る。公定歩合の変更は、MBRの借入れ金利に影響する」(同書163頁以下)。と、さらに公定歩合は6.25%と通常は1%ほどFFレート(現状は5.25%)よりも高く設定され、なおかついま引用したように担保条件が設定されてます。担保条件も問題債権を担保として差し出すことが可能になるなどこの面からも今回は緩和されてます。


 とりあえずWyploszはこのFFレート一定+公定歩合引き下げ手法を、政策の自由度を保持したスマートな手法である、と評価はしています。Wyploszは今回のサブプライム騒動は、本ブログでいうところの擬似的な金融危機であり、現行のFRBの対応をかなり高く評価しています。その一方で、もし万が一、金融危機が不況に接続したときでも、FRBの利下げ余地やその他の政策手段の余地も大きいので基本的には心配はないだろう、というのが彼の立場です。僕は上野さんのロイターコメントではないですが、スマートさよりもFRB内部での妥協の産物のような気がします。おそらく市場は利下げ転換として今回の決定を読み込んでしまう可能性が大ききのではないでしょうか?(その利下げ転換への示唆をFRBの下振れリスクや成長への懸念などの文言は示してしまっていると思います)。


 さて面白いのはECBへの評価です。キャッチ22状況(イェイ)。WyplozはECBは今回のFRBの政策に習えとアドバイス。じゃあ日本銀行コールレート一定でロンバート下げますか(というほどのキャッチ22状況ではなく、むしろ常識ケースではただの現状維持でしょうね)、なんてことは書いてませんが。

 Wyplozは今回のスマートな解法を痛くお気に入りでして、ようやく緑爺の影から脱した、これかはバーナンキマニアの時代だ、と宣言しちゃってますが 笑。

3)ウィレム・ボイターのブログ


 http://maverecon.blogspot.com/2007/08/missed-opportunity-for-fed.html


 少し疲れてきました 笑。簡単にすましたいのですが、こちらは簡単にいうと今回の政策はなんか意味ねえ。むしろ流動性の追加供給とちゃんと対応しますというステートメントだけでいいんじゃないの? それといまはどちらにせよ、流動性リスクが高いだけで実体経済への影響ないから将来的に利下げの必要もないね。とまあ、こんなもんでしょうか(少し面倒なので端折りました。ご容赦)。