NHK「そのとき歴史は動いた」&姜克実『晩年の石橋湛山と平和主義』から


 石橋湛山の戦前の小国主義が実践的な価値を持ったのは、先のNHKの番組でも簡単に説明されていたように、日本の大陸侵攻によって得られる経済的利益とそれによって失う米英との交易上の利益を比べるといった経済論的な側面であったと思います。

 
 姜克実先生の著作を読んでみると、石橋の第一回訪中時前から抱いていた「日中米ソ平和同盟」論は、長期的には軍備撤廃、世界国家、「第三の生活原理」(資本主義でも社会主義でもない第三の道)を目標にしていたとはいえ、当時の世界情勢からすれば、ソ連のフルシチョフによる米ソの緊張緩和を背景にした実践的な意義を有していたことは間違いないでしょう(そこの点は放送ではあまり触れられていなかった)。他方で第一回訪中時では、岸政権の安保条約改定を(本音では先送りないし大問題化したくない意図があったとしても)政治的な判断で擁護していたのも事実です。この段階では、湛山の平和論の核心には、まだ戦前の経済論的な要素が残っていて、再軍備や軍備拡大に国民の富を使うよりも国内の福祉に使えば国民の幸福につながる、という観点がまだありました。


 しかし(老齢ないし晩年の宗教的境地への回帰などが理由となって)その後は、むしろ経済論的な側面が捨象されていき、理想論的側面が純化されていくとともに、米中の対立の激化(ベトナム戦争の本格化など)に実践的な意味で湛山の論は適合していかなくなっていったのも否定できない事実だと思います。今日の湛山への再評価は、主に9条中心とした護憲論、「国を喪うことも覚悟した」軍備全廃・平和論など、その実践的な側面や経済論的な側面を顧みない、単なる「湛山のイデオロギー化」になりはしないかと懸念しています。