石橋湛山の亡国経済論への批判:ハイパーインフレと清算主義

 石橋湛山記念財団から『自由思想』の最新刊を頂戴しました。ありがとうございます。今回から敗戦直後の石橋湛山のインタビューや対談など全集未収録の資料を追う新シリーズが登場です。僕もこのブログで、湛山の全集未収録の敗戦直後の講演録を掲載したことがありました(石橋湛山の全集未収録原稿「インフレ対策と経済安定」(その1その2その3)。

 今回は、戦前から清算主義者として名高い勝田貞次氏との対談「通貨の不安をどう見る?」というものです。収録は昭和21年10月後半。当時の石橋は大蔵大臣でした。その彼に勝田が、そのときに問題だった高いインフレ(ハイパーインフレ)を中心にして、預金封鎖や新しい対米為替レート問題などについて語ったものです。

 勝田の主張は、清算主義者の特徴なのですが、1)非効率な部門が経済の危機の原因、2)それを不況を徹底することで清算するのが望ましい、というものを基本にしていて、それ以外のマネタリーな側面を含めて、その都度「おまけ」的な修辞でしかありません。このときの対談では、勝田の主張は、インフレがあるから財政の膨張がある、という命題です。インフレ自体は人々の不安に基づきます。インフレの根源が不安であれば、その不安の解消にはどうすればいいか? そのためには不安の根源である国家や産業社会の清算が必要となるというわけです。

 それに対して石橋湛山の主張は、高いインフレは財政の膨張に依存している。例えば敗戦直後の品不足がインフレを招いてとしてもそれはそんなに青天井ではない。そのため財政の膨張を防ぐとコミットすればやがて高いインフレも終焉するし、それも近い状況である、とするものでした。また預金封鎖(旧円については実施中)についてはそれを解除を急ぎ、また新円についてはそれをやらない、と表明している。これは勝田たち清算主義者やマルクス主義者たちがしきりに新円の預金封鎖をさまざまなところで発言していることが、インフレ期待につながっているという石橋の批判が根底にある。

 石橋は、勝田たち清算主義者こそ財政や経済の不安をあおっていると以下のように、清算主義を批判している。

「石橋:略 いまはなんといっても行くところまで行くしかないんじゃないかという論者があり、それだから政府の財政も収縮できないだろうというのだが、それはつまり成り行きにまかせて勝手次第なことを各個人に言わせて国家なり、会社なりを破産に陥れて、そこではじめてチェックするということです。しかしこれは非常に損害の大きい方法だ。会社が亡びるか国が亡びるかというところまで持って行ってチェックする、そんな智恵のないはなしはない」

 石橋は清算主義こそ亡国論の基礎であるとして厳しく批判している。僕も亡国経済学の系譜を書いたが、まさに湛山は生涯、この「智恵のない」清算主義=亡国経済論と闘ってきたのだな、と思う。