アダム・スミスからSteven Cheung(張五常)へ

 山岡訳の国富論は当面さておき、その巻末に収録された根岸隆先生の解説を読みました。そこで引用された池尾愛子さんと若田部昌澄さんのAdam Smith in Japan: Reconsidered from a Non-Marxian Perspective (Lai, Cheng-chung(ed) Adam Smith Across Nations, Oxford: Oxford University Press )を目にして、ここに紹介されてる拙論文Adam smith's vent for surplus を懐かしく思い出しました。この論文の中核にはSteven N. S. Cheung(張五常)の分益小作制度モデルの援用があって、ごく最近、ちょっと(いや、かなり緊急に)必要にせまられて中国の経済学者を調べておりまして、回路と回路が以上のように結び付き、張五常氏の業績を調べてみることにしました。


 で、驚いたのですが、張五常氏はシアトルで古物店を奥さんとともに経営していて、そこでの贋作販売*1などでインターポールから国際手配をされていたんですね。

http://en.wikipedia.org/wiki/Steven_N._S._Cheung
最近の動静を伝える日本語のブログ記事としては以下などもあり。
http://d.hatena.ne.jp/fookpaktsuen/20070108

 中国とアメリカの間では身柄引き渡しなどの合意はないみたいで、いまは奥さんと一緒に深せん(香港だと身柄引き渡しの合意あるので本来の住居である香港には帰れないようです)に住んでいてVIP待遇兼香港のメディアなどに健筆をふるい、いま調べたらブログまでやってる頑張りようです(^^;)。いや、いろんな意味で驚きましたが。


 それはちょっとワイドショー的に驚いたのですが、本来の関心事に戻しますと、張五常氏の上記した分益小作農についての研究は非常にわかりやすく、いわゆる新制度派経済学の特徴を例えばスティグリッツよりも鮮明に伝えることに成功していると僕は思っています。素朴な感想レベルでは張五常氏がアジア圏ではもっともノーベル経済学賞に近いと思ったことも何度もありました。

 張五常氏の分益小作農モデルを含む簡潔な業績紹介は、以下が非常に参考になります。


関志雄「中国制度学派のパイオニア五常
http://www.rieti.go.jp/users/china-tr/jp/010903gakusya.htm
五常氏の分益小作農モデルの理論的な位置づけを俯瞰できるのは以下のすぐれたテキストに優るもの(張氏自身の本を抜かせば)はないでしょう。この翻訳は初版のなんですが個人的には開発経済学の本として超おススメ。

開発経済学―既存理論の批判的検討

開発経済学―既存理論の批判的検討


 中国語版のwikipediaには中国語文献が非常に多く出版されていることがわかりますが、残念ながら国内の図書館ではそのごく一部しか利用できないようです。http://zh.wikipedia.org/wiki/%E5%BC%B5%E4%BA%94%E5%B8%B8


 しかし張五常氏を通して香港の論壇についての記事をいくつか斜め見したのですが、なかなか興味深い人物がいますね。林行止氏とか読んでみたい気がします。

*1:情報の非対称性の実演、などと突っ込まないように