忘れられたリフレ派、没後20年


 なんでいままで本格的に言及されてなかったのだろうか。僕自身もすべての単行本を読んでいたにもかかわらずまったく失念してしまっていた。


1 戦前の世界恐慌期の大停滞は「金の足かせ」による貨幣の大縮小が原因

2 1はつまりは金融政策の失敗による現象

3 ケインズの『一般理論』の一解釈である構造的停滞(資本の限界生産力逓減などによる構造的な超過貯蓄)への徹底的な批判*1


 だが残念なのは時代制約ともいえるが、この経済学者は戦後(特に60年代後半以降)は迷走してしまったと思われる。本源的財(天然資源や自然環境)の可壊性への注目、スタグフレーションの問題に直面して、マクロ経済政策よりも「生産的労働」を重視した一種の定常状態社会を夢想してしまったといえる。


 この忘れられたリフレ派の名前は、柴田敬(元京都大学、元青山学院大学教授、1902−1986)。
おそらくあまりにもマルクス経済学とワルラス経済学の関連からのみ評価されすぎたのだろう。柴田の3への批判はこの種の構造論的ケインズ解釈を、マルクスとの関連性から批判するものであった(柴田敬『経済の法則をこえて』日本評論社)。


 おそらく柴田の1929年から32年にかけて公表された(ただし単行本未収録)の何本もの論文は、上記の諸点においてリフレ派の貴重な財産になると思われる。


 当然のように現在入手可能なものはない。

しかし京都大学経済学会による『経済論叢』のpdf化でこの時期を含む関連文献の大半を読むことが可能(スキャンしまくり乙)。ただし上記の『経済の法則をこえて』の自己文献解題と照らし合わせて読む必要がある。

貨幣価値決定原理の一考察
http://www.econ.kyoto-u.ac.jp/ronsou/10002035.pdf
資本主義社会の機構に於ける貨幣の地位
http://www.econ.kyoto-u.ac.jp/ronsou/10002049.pdf
依然たる物価低落
*pdf文書なし
カッセル教授の貨幣数量説の実証の吟味
http://www.econ.kyoto-u.ac.jp/ronsou/10002312.pdf
世界不況の底
*pdf文書なし
長期景気波動と世界恐慌(取り扱い注意!)
http://www.econ.kyoto-u.ac.jp/ronsou/10002366.pdf
貨幣的景気論史(上)
http://www.econ.kyoto-u.ac.jp/ronsou/10002678.pdf
貨幣的景気論史(下)
http://www.econ.kyoto-u.ac.jp/ronsou/10002686.pdf
ケインズの『一般理論』に関する諸問題
http://www.econ.kyoto-u.ac.jp/ronsou/10003137.pdf
消費節約について
http://www.econ.kyoto-u.ac.jp/ronsou/10003245.pdf
ケインズの説について
『経済学論集』東京大学、9−1
ケインズの『一般理論』に就いて
http://www.econ.kyoto-u.ac.jp/ronsou/10003358.pdf
ケインズの一般理論について(上)
http://www.econ.kyoto-u.ac.jp/ronsou/10004477.pdf
ケインズの一般理論について(下)
http://www.econ.kyoto-u.ac.jp/ronsou/10004485.pdf

*1:45度線分析のミクロ基礎への疑問もあり、ここが近時の根岸隆先生の考察対象になっていると思われ