クルーグマン「日本に必要なのは…『物価上昇を伴う経済成長』だ。」スティグリッツ「日本の経済を刺激する方法はいくつもある。円高を食い止め、製造業の輸出競争力を向上させることが重要」in NHK Biz

ここ数日、僕の知人もインタビュークルーで参加した、NHKのBizに出演したクルーグマンスティグリッツのインタビューの文字起こしが以下で読める。必読である。

世界が注目する“日本の教訓”
http://www.nhk.or.jp/bizplus/history/2012/08/detail20120813.html#contents1

世界経済の課題 “格差の是正”
http://www.nhk.or.jp/bizplus/history/2012/08/detail20120814.html 

まずしばしば日本の日本銀行よりのメディアや評論家たちに悪用されるクルーグマンの「お詫び」発言の真意が明確に出ている。クルーグマン天皇陛下におわびをすることが真意であった。他方で、歴代の日銀総裁にもお詫びするが、それは天皇陛下へのお詫びとはまったく異なる意味でである。

プリンストン大学 ポール・クルーグマン教授
「もちろん、歴代の日銀総裁にもおわびしなければならない。
しかし、決して彼らが正しかったからではない。
間違いだった。
『正しい政策判断をすることがいかに難しいか、今なら理解できる』という意味で、おわびしたい。
『アメリカも同じ間違いを犯してみて、それがやっと理解できた』と」
 

また日本の場合は、

1 インフレを起こして経済成長
2 財政出動に慎重なのは理解できるが、増税はするな

という二点である。これは昨日のエントリーに書いたように、積極財政と金融緩和を組み合わせた米国とは違うものだ。クルーグマンの認識では、いまの日本はそんなに悪くない(米国に比して)。インフレを日本銀行が起こすことがキーになるというわけだ。このクルーグマンの日米の差についての認識は興味深い。

スティグリッツの方の処方せんを少し詳しく引用する。

「『景気の刺激』です。
格差を是正するのに特効薬などない。
景気を刺激する特効薬もない。
それでも日本の経済を刺激する方法はいくつもある。
円高を食い止め、製造業の輸出競争力を向上させることが重要。
サービス産業の強化も欠かせない。
さらに、富裕層の資金を低所得の人たちに行き渡らせ、格差の是正に取り組むことも重要。」

 円高対策は金融緩和中心で行う。サービス産業の強化は、インフレによる産業間の所得格差是正によって実現できる。富裕層への課税は、累進税率を上げることと消費税への極端なシフトをやめること相続税の強化でも実現できるだろう。

竹中平蔵氏の国土強靭化についての見解

 きわめてまっとうな主張だと思う。

竹中平蔵のポリシー・スクール 8月16日 “国土強靭化政策”をどう受け止める?http://www.jcer.or.jp/column/takenaka/index392.html

改めて公共投資のあり方を根本的に問う理由として、投資額削減の中で今後の更新投資が十分行われうるか、懸念が出てきたことがあげられる。日本はすでに大きな公的資本ストックを有しており、それを維持するためだけでも今後多額の投資が必要になる。国土交通省によると、2029年の時点で建設後50年以上経過する社会資本の割合は道路・橋で51%、港湾岸壁で48%になるという。従来通りの維持管理・更新をする場合、2037年には必要な更新投資額が投資総額を上回る計算になるという。その意味で、長期的な公共投資戦略が求められている次期を迎えている。残念ながら現状の国土強靭化政策には、上記のような意味での厳格な長期ビジョンが伴っているとは言えない。

 ただ竹中氏は前向きにこの国土強靭を考えて、新たな活用法としてコンセッションを提起している。

「既存の資本ストックを活用するという視点だ。具体的に、キャッシュフローのある施設に関し、「コンセッション」といわれる手法を活用することだ。コンセッションとは、資本の所有は公的部門が引き続き担当するが、料金をとってその施設を運営する権利を民間に売却することを意味する」。

 そして国土強靭化の現在の主張には、一定の既得権への配慮があることの指摘も忘れていない。
「現実問題としてこの強靭化政策には、地方の実質的な主力産業である建設業を助けるために、減少してきた公共事業を再拡大させたいと考える政治的意図が存在していよう」。

 かなり簡潔に論点がまとめてある優れた論説である。なお上記論説における空港でのコンセッション事例などはかなり前になるが以下の文献も関連している。

一気にわかる!空港の内幕―日本病のカルテ

一気にわかる!空港の内幕―日本病のカルテ

速水健朗『都市と消費とディズニーの夢ーーショッピングモーライゼーションの時代』

 デフレカルチャーの造語を生み出した速水健朗さんの最新作は、都市の些細だが重要な変化(時間決め駐車場から校外のショッピングモールの進展など)に注目した興味深い探究だ。あとがきにもあるように、SF作家のバラード的な世界を速水さんの独自の視点から再解釈したかのような都市論だ。本書の副題にある「ショッピングモーライゼーション」という概念は、速水さんの造語であり、「都市の変化、競争原理を導入し、公共的なスペースが最大限有効活用されるという変化」を指している。例えば従来では郊外のショッピングモールなどは新自由主義ネオリベ)からの社会の画一化やコミュニティの崩壊を示す殺伐とした風景を指していた。

 これに対して速水さんは新自由主義批判の観点からでは、いま起きている都市の変化はつかめない。このショッピングモーライゼーションはそのような旧来の見方への兆戦だ。さてそもそもこのショッピングモールとはどんな由来で誕生したのか。速水さんはショッピングモールと結びつきの深いテーマパークの祖形であるウォルト・ディズニーの業績をます振り返る。そこにはテーマパークというのが物語性を中核にしていた。そしてショッピングモールは、中流階級が郊外で理想的な暮らしをするという物語性を担保とした設計思想によって構築された新しいダウンタウンであったこと(19世紀のハワードの社会政策的な田園都市構想が重なります)。この19世紀的な当初からのショッピングモールと、ディズニー的なテーマパークが重なるところに、今日のショッピングモールの独自性が生まれる。と同時に特定の階層のためだけのものではないものとして今日のショッピングモールも変容している。

 後半は日本の新しいショッピングモールを扱っている。二子玉川、たまプラーザ、成城学園前の駅に接続したモールの特徴をあげ、なぜ都市ではショッピングモールがこれほど増加していくのか、それを速水さんは都市の地価の高さと収益性にその原因を求めている。そして規制緩和がその増加の後押しをするとともに、08年以降の再規制の中でふたたびモールの増加率が低迷していることも指摘している。

 日本のショッピングモールはいわば地域独占体としての東京電力に似ている。初期の固定費が巨額で、後発するモールの開発業者は簡単に競合するモールをつくることができない。自然独占事業体に似ているので、出店している店舗の価格は高めに設定されるかプレミアムが発生している。例えば観光客目当てのショッピングモールなどはその典型かもしれない。あるいはモールに出店する企業の多くは独占競争的なチェーン店がほとんどであり、あたかもそれは(企業間の支配関係はないが)東電のファミリー企業群が、独占的余剰を分け合うのに似てもいるだろう。またはディズニーのように、周辺に与える外部性をすべてのみこみ(=外部経済の内部化)、完結型の経済圏として最新のショッピングモールはあるのかもしれない。ここらへんはもっと考えたいところだ。

 本書で展開されたショッピングモール論はいろんな発想を引き出してくれる。