水田洋『ある精神の軌跡』と林達夫

数年前に大塚金之助の詩歌についての論説を書いた。その時に、水田洋先生がその半生記である『ある精神の軌跡』で大塚の人物をかなり批判的に言及していることを知った。実は論説を書いたときには読んでなかったので、いつか読もうかと思い今日まで経ってしまった。最近、水田洋先生を追悼した中澤信彦先生の論説を読んだことと、また社会思想史の研究史を振り返る必要があったので、その意味でも水田先生のこの半生の記は必読と、ようやく通読した。

 

中澤先生の論説は以下

NAKAZAWA,Nobuhiko. Hiroshi Mizuta (1919-2023): A Life in Search of the Origin of Democracy. Revue d'Histoire de la Pensée Economique (Classiques Garnier). 2023. 16. 15-22

『ある精神の軌跡』は、大塚の人格批判的なとこよりも興味を持ったのは、山田雄三=ミュルダール批判を通じての水田先生の自然法を通じての社会改革の「担い手」への注目や、またルカーチへの着目、さらに学生時代に読んだ林達夫『思想の運命』『文芸復興』『社会史的思想史ー中世』の三冊に深い影響を受けられたところである。

「思想史の基礎訓練を与えてくれたのは、林の三冊の著書であり、それらは、思想史というものが、ひとすじ縄ではいけないこと、表通りではなく、「いくつも裏通りがあること、それだからおそろしくもありおもしろくもあることを、教えてくれた」(126頁)、とある。

 実は僕もその「いくつも裏通り」があることを、林達夫の『思想の運命』(中公文庫)を福原嘉一郎先生の教養ゼミの輪読で知った。思想史、歴史の面白さを知ったのはその時が初めてである。一時期は林達夫の論説をそれこそ熟読したものである。年代は半世紀ほど違うけどw、なんだか共通していて嬉しかった(笑。

 

ちなみに先に書いた、関心のあるひとつの方向で、日本の社会思想史の研究史があると書いたが、それについてもこの林達夫の論説「社会史的社会思想史ー中世」は重要だろう。もちろん水田先生の社会思想史の研究への影響を通じてだが。林の論説は国会図書館でも読めるので以下をどうぞ。

社会史的思想史 - 国立国会図書館デジタルコレクション

 

水田先生の社会思想史は、代表作『社会思想小史』などで読めるが、史とあるがこれは現状の社会問題への改革を意識した思想史であることがポイントだろう。そのため常に現状の問題を含めて何度か小史が改訂され、そのたびに分厚くなっている。社会思想史といわれるものの多くは現状改革を視座にいれた思想史である。この社会思想史の特長分類は、高島善哉・水田洋・平田清明『社会思想史概論』の冒頭にある。

 

なお林達夫については、最近では、    落合勝人氏が『林達夫 編集者の精神』(岩波書房)を書いていて、その中に『社会史的社会思想史』を扱っている節があるみたいだ。機会があれば読む必要がある。