映画『マルクス・エンゲルス』が良かったので、同監督の最新ドキュメンタリー。読んだことはないのだが、ジェイムズ・ボールドウィンの随筆集No Name in the Street(1972)をもとにしているようだ。映画は公民権運動が盛り上がっていた1950年代後半から60年代にかけて、その運動のリーダーであったマルコムx、キング牧師らとボールドウィンの関わり、当時のボールドウィンの発言や記録映像などを交え、しかも現代の映像(黒人たちの抵抗運動、暴動など)を絶え間なく対照させて、映画のメッセージ「歴史は過去ではなく、現代である」というものを映像化している。
歴史を現代の問題として、しかも人種、民族、国家の在り方として考え、それに排他主義的問題圏をクロスしていく手法は、やがて見るものにアメリカの問題だけではなく、われわれそれぞれの国が直面する問題だと気が付かせる、そういう作品だ。
ボールドウィンの小説作品はまったく直接には参照されず、彼はひたすらテレビや記録された映像の中で語り、ときには活動する。そこに彼の書いた随筆の朗読が入る。
ペック監督の前作である『マルクス・エンゲルス』の中で、マルクスたちが語っていた「哲学者たちは世界を解釈しただけだ。問題は、世界を変革することだ」のモチーフを、今度はボールドウィンによって示しているかのようである。もちろん映画はひとつの解釈であり、そのままでは実践ではない。ただし歴史を遡行し、それを現代に映す(再生する)行為そのものが実践なのかもしれない。
ボールドウィンの小説はこれが日本では一番新しい翻訳かな?