この1年で出たアイドル論ベスト5

 この一年で日本ではなく世界!!で出たアイドルを論じた著作の中でのマイ・ベスト5は、順位不同

1)竹中夏海『IDOL DANCE』

 玉城ティナの表紙もカワイイけど、中味は竹中さんがどうしてアイドルのダンスに興味をもったのか、から始まり、東京女子流などのアイドルを具体例に、そのアイドルのダンスのツボと魅力を初心者にもわかりやすく伝えている快著。僕はこれを読んでから東京女子流に興味をもち、彼女たちのCDだけではなく写真集まで手をひろげた。それが数か月後、マージナルではあるが、同時に最前線のアイドルたちに興味を持つことに繋がった。

IDOL DANCE!!!: 歌って踊るカワイイ女の子がいる限り、世界は楽しい

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2)中森明夫「「午前32時の能年玲奈

 中森さんの「あまちゃん」論が熱い。すでに対談や座談そしてもちろん日々のつぶやきまで入れると、中森「あまちゃん」大全ができるほどの充実した内容だ。そしてこの論説には、中森さん自身の活動そのものも組み込まれているこの10数年のアイドル、美少女たちの歴史が、やがて能年玲奈に怒涛のように流れ込んでいく軌跡が、美しいレトリックとともに綴られている。素晴らしい論説だ。

「戦後日本最大の国難に対峙するのがアイドルなのだーーというこのドラマのメッセージを、私は支持する」と書き、中森さんの自説である、1)南からくる少女でアイドルの歴史は変わる、2)夜の世界(=サブカルやネット)と昼の世界(=経済政治)を朝の世界(あまちゃん、アマノミクス…この論文ではでてこないが、新しい中森さんの論説のキーワード)が、現実を虚構が変えていくことで変容させていく、そういう面白い見解が展開されている。中森さんのアイドル論も「あまちゃん」によって数段変化した。僕はそう思い、同世代の中森さんの進化にこれからも注目してしまうだろう。

3)手前味噌漬けだがw中国語版『AKB48のチェック柄のスカートの経済学』

 たぶん世界で初めてのアイドルの経済論であり、その中国語訳とはいえ海外でのアイドル論の本格的翻訳としてはおそらく最初のものであろう。冒頭は台湾のカルチャーを代表する面々がかなり詳細なAKB論を寄稿していて、原書発行から最近までのトレンドを埋めてもらっている。香港・台湾ではそこそこ評判になった一冊。海外取材も最近うけたw

4)安西信一ももクロの美学』

 実に内容豊富なアイドル論。本書を読みながら、僕自身の存在も「ももいろクローバーZ」の一部分として吸収されてしまったことに気づく 笑)。2011年のときには、こんな国民的なアイドルに大変貌するとはおそらくほとんどの人が思わなかったろう。本書では、(いまのアイドル評論を書くライターたちに共通する病理のひとつだが先行する業績や、自説と他説の相対的位置取りを明確んしていない、という傾向とは全く違い)あたりまえな参照軸もしっかりと明記されていて、後発のももクロ研究者にも非常に役立つだろう。また安西さん自身が認めているように、本書の方法論は宇野常寛さんの『ゼロ年代の想像力』に深く影響されている。その意味でも僕のこの論説との対比の意味でも面白い。

5)大谷能生速水健朗・矢野利裕『ジャニ研!』

 女子アイドルに関心が強いので、どうしても男子アイドルには興味がないのだが、本書は僕のようなバイアスの壁をつきやぶってくれる超高度なアイドル研究書だ。あくまでも現代のアイドル、芸能に興味の主軸をおきながら、その歴史的射程は戦後日本を覆う。いやそれ以前の日本の近代史までにもおよんでいる。またオリエンタリズムジェンダー的な観点への接続も見やすい。

 大谷氏が「ポップスは国民の無意識をうつしだす」と語るときに、それは僕も大きく共感する見解だ。経済思想史の研究者は、内田義彦に典型的なように、市場の無意識をつかむために、同時代の演劇、文学、広告に言及した。その伝統を自分なりに復活させているのが、僕の考えでもあるからだ。

ジャニ研!: ジャニーズ文化論

ジャニ研!: ジャニーズ文化論

選外)濱野智史前田敦子はキリストを超えた

 この本もまたこの一年、いや戦後でたアイドル論のひとつの極北だと思う。ファン信条を客観視することなく、それを極限まで高めたときに、濱野さんが何を語ったか。それ自体が「宗教」であり、「宗教論」ではない。その限界をみながら本書を読むと本当に面白い。

前田敦子はキリストを超えた: 〈宗教〉としてのAKB48 (ちくま新書)

前田敦子はキリストを超えた: 〈宗教〉としてのAKB48 (ちくま新書)