武長氏の専門領域は公共経済学とのことだが、僕は分野も違うので存じあげない方である。本書は経済学にはほとんど関係がない。また若者論のようでいながらも、話は「いまの若者は」というよりももっと一般論に近い切り口であり、断定的な物言いや説教的なものではない。
「孤独力」と著者が名づけるものは、自分と語り合うこと(自己内対話)の重要性である。人は完全な孤独にはなれない。なぜなら自分の中に「もうひとりの自分」がいるからだ。その自己内対話を通じて、自分のことを愛する自己愛の重要性を知ることが強調されている。またこの自己内対話は、自分の真価を冷静にみつめることで、自分と他者との違いを意識化することで、コミュニケーションの基礎にもなると説く。
「その意味で、孤独力はコミュニケーションと対立するものではなく、その土台、基礎になるものです。ひとりになって自己反省や自己内対話をしながら、相手のことを考え、自分との違いを顧みていく。さらに集団のなかでのコミュニケーションになってくると、全員の理解や納得をすぎに得られないことを前提に、みんなの意見をうまくひきだしていくことが大切になります」(121-2頁)。
たぶん何人かの読者は、著者のあげた例示が好きにはならないだろう。だがなぜ自分はその例示が気に入らないのか(まれには気に入るのか)少し自己内対話をしてみるのもいいかもしれない。僕にはそんな些細なところで揚げ足をとるよりも、本書の視点―孤独こそ人としての生活の基礎ーというメッセージにとても魅かれた。
その昔、大学院生時代にある尊敬すべき先生が、「孤独に慣れろ」と院生たちにアドバイスしていた。その意味は上に書いたような自己内対話をして、自分の洞察を磨き、またその洞察に基礎づけられた、人間関係を築けということだったのかもしれない。
好著とは言い切れないが、これから「孤独に慣れろ」という意味をさらに考えたいのでこの一書は参考になった。
(参考)拙著『不謹慎な経済学』第2章「人間関係が希薄化したのは、みんなが望んだからだ」
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