上念司『売国経済論の正体』

 御本頂戴しました。ありがとうございます。しかし刺激的すぎる題名です 笑。

 ここでいう「売国経済論」というのは、日本経済の潜在成長力を弱体化させる方向の経済論を喧伝し、あるときは保守の仮面をかぶりながら社会主義官僚的な関与を強める形で、日本経済のさらなる弱体化を促す人たちの言説を総称しています。その「親分格」が野田首相であり、また何人かのエコノミストであるという指摘です。

  本書は江戸時代の経済政策から戦時経済(近衛内閣)のときの経済政策が、いかに政治体制や防衛などにも悪影響をあたえてきたか、という政治経済的ないし地政学的な関心も中心的な話題になっていて興味深いですね。また経済学の基本原理をできるだけわかりやすく読者に提供しているのも本書の大きな魅力のひとつです。デフレの仕組み、貨幣数量説、相対価格と一般物価、さらに国際経済の仕組みを知る上で必修の基礎知識である国際金融のトリレンマを、おそらく類書の中ではもっともわかりやすく解説しています。それに関連して最近の国際経済状況(ユーロ危機、中国経済、米国経済など)との関連もこれまた要点をおさえて解説しています。

 久しぶりの単著なので上念節がこれでもかというぐらいに全開ですね。もちろん財政危機についての考察や、先にあげた具体的な人物名を明らかにした「売国経済論」批判も、売国という表現があまりに過激なので(笑)そっちに関心がいってしまう人も多いでしょうけれども、個別な発言批判は論理を尽くした周到なものです。

 ぜひこの野心的で、挑発的な知の世界を楽しみ、日本の経済の行く末を真剣に考えるべき一助にすべきだと思います。

日本再生を妨げる 売国経済論の正体

日本再生を妨げる 売国経済論の正体