内藤陽介『事情のある国の切手ほど面白い』

 日本ではいまも尖閣諸島問題の話題は熱い。マスコミでも日常の会話でも頻繁に出てくる話題であろう。しかし日本だけではなくさまざまな国が領土問題を抱えている。なぜ領土問題が発生するか。その多くは国家の利害が存在するからであろう。ところで国家の利害が直接に表現されるものとして、切手という小さいメディアのもつ重要性を、郵便学者の内藤陽介さんはずっと研究し、それを時論的または専門的著作で書いてきた。その切手を通じてという独特の手法で語られる、内藤さんの政治、国際政治、経済、社会論は、歴史的な視点とともに深いものがあり、僕はいつも著作を拝読すると、その面白さにう〜んと唸ってしまう。

 今回も表題通りにさまざまな国の「事情」が切手を通じて明らかにされている。最初の尖閣諸島問題に関連していえば、本書の「領土争いをしている国」の章は必読である。日本やアジアを中心にした国々の領土問題の由来がとてもバランスよく簡潔に整理されている。また「表と裏を使い分ける国」では、北朝鮮や中国の外交政策の実態とその問題点が実に鮮明に描かれている。特にタイへのパンダ外交と、それがタクシン派と反タクシン派の抗争の「黒幕」の話につながっていく記述は、面白い。またギリシャの財政危機も切手の話題とともに、並みの経済学者をはるかに超えるクリアな視点で解説されている。

 しかしこのような切手「時論」というべき書は、内藤さん以外に書けないだろう。まさに異能といっていい。

事情のある国の切手ほど面白い (メディアファクトリー新書)

事情のある国の切手ほど面白い (メディアファクトリー新書)