bewaadの発言がますます意味が不明な件

http://d.hatena.ne.jp/bewaad/20100519/p1

前回のwebmasterのまとめを再掲すれば次のとおりです(それ自体が不適切とのご指摘はいただいておりませんので、とりあえずそのままにしてあります)。

ああ、あの三点でまとめたもの。全体のたかだか数頁をあたかもこの本の中心のようにして「言論統制」への批判がこの本の中核であるという誤った印象操作をした個所ですか。「不適切」すぎてそれは前提だと理解してますが?*1 もっと分量的にも内容的にも読むべきところがあると信じてますが、まるで最初の1章だけを流し読んだだけで書ける要約であると思い、まとめ以前のものだと思いますよ。


 しかも面白いのは、僕は「すべての日本の経済学者は言論統制されている」などとは一言も書いていないのに、bewaadが経済学舎たちのアンケート調査、また個別の著名経済学者を反証事例に持ち出していることだ。正直、これだけ悪い宣伝もないわけで(笑 僕が言論統制の事例としてあげたのはふたつの事例であり、それは日本の経済学者がすべて言論統制されているのではない(硬貨洗浄、クルーグマンの件の二例のみ)。いわば「日本銀行の内部」からの情報を書いたわけである。なぜbewaadがここで僕の主張を「(すべての)日本の経済学者は言論統制されている」とでもいうような主張に読み変えてそれを喧伝しているのだろうか? 理解の範囲外である。

 ちなみにもし経済学者アンケートの調査をみれば、僕の意見は、1)それぞれの経済学者の抱懐する理論による、2)日銀の政策への理解の度合い などを主因とするだろう。もっとも毒舌な僕は、後者に「無知・無理解」の可能性をみ(まあ、これは別な人が書くかもですが)、さらに第3の要因に、日銀とそのアンケートを答えた人たちとの関係をみてみたい誘惑をもってしまうが、まあ、それは別途考えるべき問題だろう。

田中先生は、日銀にはマイルドインフレ実現というミッションが課せられているとお考えになっている一方、webmasterは、日銀にはマイルドインフレ実現よりバブル防止を優先すべしというミッションが課せられていると考えている点にあるのだと、webmasterは認識しています

 いいえ、違います。この本全体で書いていることは、一言でいえば、日銀のミッションの不明な点です。僕はいまの日本銀行が「マイルドインフレ実現というミッション」を課せられているとは「現実」として考えていません。またbewaadのようにBISビューでもバブルつぶしでもなんでもいいですが、特定のミッションを実現すべく動いてるとも「現実」は異なると思います。例えば、本にも書きましたが、日銀の昨年の11月から12月にかけての「政策転換」はその具体例です。特定のミッションをとっているようにはまったくみえない、というのがこの本の主張と言い換えることができるでしょう。この整理からもあなたが本書を読んでないか、あるいは誤誘導を行っているかいずれかではないかと疑います。

 それとbewaadは「日銀にはマイルドインフレ実現よりバブル防止を優先すべしというミッションが課せられていると考えている点」を、日本の経済学者たちのアンケート調査から導きだしている。

先に書いた日本の経済学者の認識等に照らし、現在の日銀のミッションとして(日銀自身を含め)社会的な共通認識となっているのはこれであろう、と分析しているということです

 しかしアンケート調査からbewaadの推理を裏付けるいかなる証拠もないのは自明である。もしこれが「社会的な共通認識」(経済学者だけでもないようだ……ますます意味がわからない日本語だ)ならば、それをbewaadがはっきりと検証すべきである。

 さらに申し訳ないがこの修辞を使わせてもらうが、意味がわからない「官僚文学」はこれである。

たとえば営利企業を考えてみましょう。利潤追求というミッションに対して、マクロ経済環境の悪化で赤字になったとすれば、ミッションは果たされていないわけですが、これはガバナンスの問題ではありません。他方、役員が自らの親族が経営する取引先に優遇を図ったために赤字になったとすれば、これはまさしくガバナンスの問題となります。また、NPOを考えれば、字句どおり非営利団体なわけですから、NPOが利潤を追求しなかったために赤字になったとしても、それはミッションの問題であってガバナンスの問題ではない、ということになります(もちろんNPOとて、ガバナンスの問題ゆえに赤字になることもあるわけですが)。

 このbewaad流の「ミッション」と「ガバナンス」になぜのらないといけないのか意味が不明だし、彼のいっているようなことは僕の本には全然でてきてない、以上終わり。でもいいのだ。

 しかしbewaadの解釈とはずれると思うが(そもそも彼流の解釈が間違っているのでどう処理していいのかわからないので)「ミッション」を物価の安定としよう。次に「ガバナンス」に関わる問題を、日銀の政府からの独立としよう。インフレではなくデフレであり、これは物価の安定ではないので、「ミッション」は果たされていない。そしてこの「ミッション」がずっと果たされていないのは、日本銀行が政府からの独立を事実上すべての責任免除と考えているという「ガバナンス」の問題がある。

 さてbewaadは先の僕の本のまとめで、あたかもこの本が「ガバナンス」だけに注目しているかのようにとっている。しかしそんなバカなことはないわけで、いま僕が書いたように、「ミッション」には物価安定に加えて雇用の安定の考慮、「ガバナンス」には責任義務を生じさせ、政府との目的を共有するインフレ目標の導入を図る、ということである。もしそれで足りなければ「ミッション」」でも「ガバナンス」でもいろいろ改革すればいい。

 官僚のこて先の日本語遊び(論点以前の「ミッション」と「ガバナンス」の自己流解釈)に付き合う暇はない。むしろ彼のこて先の日本語遊びにはげんなりである。いまこれ書いてても得るものがひとつもない。

 さてロゴフの件である。これは僕については、bewaadがロゴフの援用をなぜしたのか、という方に注目している。なぜならばロゴフは別に日銀的な見解を持っていないからだ。なぜならロゴフは日本銀行のデフレ政策(bewaadのいうような「日銀にはマイルドインフレ実現よりバブル防止を優先すべしというミッション」)を失敗に思っていることは下の記述をみれば明瞭である。

大恐慌を防ぐにはインフレ政策しかない――ケネス・ロゴフ ハーバード大学教授 - 09/01/16 | 17:3
http://www.toyokeizai.net/business/international/detail/AC/829d806c1f49099efa0cc0578e4619f5/

インフレが再燃するのではないかというおそれから、10年にわたって日本銀行の機能はマヒしてしまった。

 ここでロゴフは1)日銀はインフレ懸念をしていた→bewaadのバブルのおそれという理由ではない、2)日銀のデフレ政策は失敗、ということが明瞭である。

 また同時に、前のエントリーでも書いたが、ロゴフが従来のインフレ目標に加えてプラスアルファの部分でバブル防御を考えてても不思議でもなんでもない。 

他方で、bewaadを含めて多くの人が注意していないのが、ロゴフは日本銀行の政策を失敗と見なす一方で、日本の停滞をものすごい理論でとらえていることだ!

 それは「中国と競争するために構造改革をする時間が長くかかったから長期停滞」というものである。90年代からわれわれは中国のために構造改革に時間をかなりとられたようだが、しかしもちろんその証拠なんてロゴフは提供してもいないし、こんなバカバカしい日本経済論に付き合うこともできない。

政策を間違えなければ大恐慌にはならない――ケネス・ロゴフ ハーバード大学教授(1) - 09/02/26 | 17:20
http://www.toyokeizai.net/business/international/detail/AC/4662a74503c9fcd20dde5cbdaaed8123/

 日本は90年代の危機から回復するために長い時間がかかったが、これはあくまで例外的。同時期に日本経済は中国の台頭という大きな挑戦に直面して、構造改革をする必要があったからだ。

 いいかげん、筋ワルのbewaadの議論から目を覚ませ、もっとちゃんとした経済学の本でも読んだ方がいい。彼の書き込みで現役財務省官僚のマインドとか「行動規範がわかる、などという妄想で支持したり読んだりすると、本当に誤誘導されるだけだと、僕は思うけどね。まあ、「支持者」には聞いてもらえんでしょうけども 笑

 ところでbewaadはロゴフがBISビューであることを取り下げて、今度は「日銀にはマイルドインフレ実現よりバブル防止を優先すべしというミッション」を支持しているかのような発言を書いているが、それは上に説明したように単にbewaadの誤読である。問題は前回も書いたが、bewaadがいまや「日銀にはマイルドインフレ実現よりバブル防止を優先すべしというミッション」という見解が、国際的にもいいのか悪いのか決着のついていない問題であるとして、事実上、ロゴフを利用して日銀流理論を弁護することに、結果的にか最初からかはわからないが、なっていることだ。彼の内心の変化などわからないが、少なからざる人々は彼の言動が以前とは異なる方向にかなり変化しているという印象を持つだろう。

 ちなみにこれも前回書いたが、ここにbewaad流「ミッション」という用語法のおかしな点がある。「日銀にはマイルドインフレ実現よりバブル防止を優先すべしというミッション」でみると、90年代以降はかなりこの「ミッション」は成功しているようにさえ思える、と彼はいいたいのかもしれない。彼のはてブなどをみると、それを支持する意見さえある。正直、いおう。これは単にトンデモなだけである。どの中央銀行もその国の経済が望ましい成長をとげることが最重要な目的である。ところが日本経済は「バブル潰し」には成功しているのかもしれないが(そのこと自体も論議があろう)、90年代からずっと低成長やマイナス成長を続け、失業率は高止まりし、デフレは持続している。それは言葉の本当の意味でいえば、単に中央銀行のミッションがうまくいっていない証拠として十分である。なお日銀法には物価の安定とは書かれているが、「バブル防止を物価安定よりも優先すべし」という内容も、またそれを示すbewaadの使う「ミッション」なる用語もでてこない。

 あとbewaadの誤誘導にだまされないためにも下の拙著を読んでください。上にも書きましたが、彼はロゴフも僕の本もろくに読んでません。そういう人物は反省してもう余計なレスをせずに当該エントリー(特にわずか1章しか読んでないのが明白なまとめのところ)を削除して沈黙するように。大迷惑です。

デフレ不況 日本銀行の大罪

デフレ不況 日本銀行の大罪

*1:また前回エントリーでも要約が不適切であると指摘した個所もありますが、なぜそれを「不適切」とは認識していないのかも不可思議ですが、これまた日本語の解釈学の問題でしょうか。いささかその種のやりとりは、おたがいの発言の不毛な訓詁学だとおもいますので、ここではただ単にbewaadの要約は不適切であり、著者としてはただ単に迷惑である、とだけ認識してください