旅情と“史”情あふれる『トランシルヴァニア/モルダヴィア歴史紀行』(内藤陽介)

 チャウシェスク処刑からもう20年ですか。ついこの間、News23の映像でそのニュースをみたように思ったけど、それを報道した筑紫キャスターもいまは冥界へ。時間の流れるスピードには唖然とします。

 この本は過去の時間が複雑に堆積している冥界への入り口を、冥界とは対照的なほど明るい旅行中の写真や切手の画像とともに、軽快な筆致で書かれた快著です。ドラキュラ、コマネチ、チャウシェスクルーマニアの三大スターだそうですが、本書はそれらの定番の話題をからめながらも、この日本にはまだよく知られていない古き都のいくつもの素顔を描き、また同時にハンディな旅行ガイドとしても成功しているなど、興味が尽きません。正直、切手が話題にからんでいることも読んでいくうちに忘れてました 笑。それだけ本書が良質なガイドとしての役割を果たしている証拠でもあるでしょう。

 あと内藤さんの語り口がふだんの私的な会話調にかぎりなく近いのも魅力のひとつでしょう。しかしうらやましい。経済学でこの種の旅行記を企画してもアメリカ、イギリスで出せるのが精いっぱいかもしれません。『アダム・スミス旅行記』とか『世界の経済異境の旅ー日本銀行ツアー編』ぐらいしか 笑)。