書評:川原和子『人生の大切なことはおおむね、マンガがおしえてくれた』


 先々週発売の『週刊東洋経済』に掲載された書評です。まじに川原さんの文章面白いからちょっと読んでみ。『週刊東洋経済』でマンガ関係の書評が掲載されるのは、いまは論争相手となっている福永宏さんと楽しくコンビを組ませていただいてマンガ関係(つげ義春初期著作集、増田悦佐『日本型』)を書評して以来です。論争に発展した増田本以来でしたので僕もかなり楽しんで書きました。


 川原和子さんのブログはここhttp://mangalove.seesaa.net/
 日本マンガの僕の読書指針(川原さんと伊藤剛さんの連載はここ)。ありゃ、デザイン変わったw


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ウディ・アレンの映画に『カイロの紫のバラ』という小品がある。失業中の夫を抱えて生活に苦労している女子(ミア・ファロー)が、映画をみていると銀幕の中から、主人公が飛び出してきて、ひと時彼女とのロマンスを展開する。ところが映画の主人公は、やがて彼女と別れてしまう。ふたたび孤独に陥る彼女だが、それでもフレッド・アステアとジンジャー・ロジャースの華麗なダンスを、薄暗い映画館の中でうっとり見つめる姿を映して物語は終わる。川原和子のデビュー評論集となる本書を読んで、僕はこの映画を思い出した。


 この評論集は、幼少のときから現在まで、著者が重ねてきた広汎なマンガ体験(少女マンガからボーイズ・ラブまで)をベースに、ときに微笑を誘うユーモア、ときには真摯な人生の教訓をマンガの世界から引き出すことに成功している。例えば、『エースをねらえ!』からは、「男なら女の成長をさまたげるような愛し方をするな!」というグサリと評者(男)に突き刺さる言葉が引用されている。しかし次の章をめくれば、「地味でオタクでなさけない男」が、かわいい女性から、「そーゆーとこ好き」と救済(?)されるマンガに話が引き取られる。読み手に対して、厳しすぎず、また優しすぎず、ときには著者自身の結構あからさまな体験談も読ませる。読んでいるこっちまで、著者は、ひょっとしてマンガのキャラではないか、とさえ思えてくる。本書は乙女心をもつ人でも、また酔っぱらって頭にネクタイを巻く人でもともに楽しめるマンガエッセイとなっている。


 ウディ・アレンの映画は映画が人生を教え、また人生をひと時忘れさせることを能弁に語ったのだが、本書もまたマンガが人生をおおむね教え、また人生をかなり忘れさせることを能弁に語っている。

人生の大切なことはおおむね、マンガがおしえてくれた

人生の大切なことはおおむね、マンガがおしえてくれた