柳川範之『独学という道もある』

 柳川氏の多くの本がそうであるように、クセのない淡白な本である。正直、面白くなかった。もちろん本書のメッセージである「さまざまな生き方がある」ということは本当である。それを否定する材料を見出すことは難しいだろう。例えば本書でもそのさまざまな生き方のひとつとして強く推奨されている、いったん社会にでてからまた大学にいったほうが自分に何が欠けているかわかるのではないか、という生き方も理解できるし否定のしようもないことだろう。なんといっても僕がそうだからよくわかる(もっとも大学ではなく大学院だけども)。

 柳川氏の経験もすっきりとして読めるし、彼と似た人生(さまざまな生き方があるが人はどこか似ている人生を送るのもまた真理であるだろう)をおくる人への勉強上のアドバイスもいくつかあるだろう。しかし何かたりない。しかし、あとは読者自身がその淡白感のあるなしを判断するしかないだろう。

(追記)エントリーをあげてから気がついたが、赤間さんが本書のレビューを書いていた。http://d.hatena.ne.jp/akamac/20090217/1234879686
それを読んでようやくわかったが、僕が本書を淡白だし面白くなかった、と思う理由は、「どんな就職経験があろうと関係ない大学院や学界かどうか,いい論文さえ書ければ十分評価されポストがえられているかどうか,いくらでもケチをつけられるが」というところなんだろう。いわば成功者の美談であり、「」に書いたようなことの省察がない中で、自身の成功談を書いていることへのしらけた感情なんだろう。それは大学院や学界やジョブポストやあるいは大学院卒の就職の現状をよく知らない中高生に本書を読ませることは事実の大半を隠していることに他ならないからである。

独学という道もある (ちくまプリマー新書)

独学という道もある (ちくまプリマー新書)