サブプライム騒動おまけ(ふたつの金融危機&負債デフレ理論)


 お盆休みはテレビみてたけれども見たたのは茂木健一郎がなんか絶叫してた尾崎豊コンサートぐらい。あとは新聞などメディアも見ずにこのブログとmixiを携帯でみてただけ。そんなわけでサブプライム騒動は認識の外にありました。今日はいくつか関連サイトを回ってようやく事情把握。


 まずsvnseedさんとこ読んで同意。僕もFRBの公式見解ですまそだけれどもサブプライム問題がアメリカの不況に直接結び付く可能性は現状では低い気がしてます。もちろんサブプライム問題が世界的な規模で露見するならばやはりFRBだけみてればすむ問題ではなく、以下にも書きますし、svnseedさんが指摘したように、日銀周りの人たちの無学習ぶりには唖然とし、懸念してしまいますね。


 金融危機流動性リスクによる金融危機)については、とりあえず僕はプロフィールにもありますが「経済変動と金融危機」という数式モデルつきの論文(事実上の処女論文)を書いたことがあるのです。ですのでリフレ派の少なくとも僕はもともとがこの種の流動性リスクによるマクロ経済変動というのが出発点にあるわけです*1


以下、『ベン・バーナンキ』にも書いたことを簡単に。


 金融危機には二種類あります。1)擬似的金融危機或いは典型的金融危機、2)真の金融危機。これはフリードマンの盟友アンナ・シュウォーツの区分。


 1)はチャールズ・キンドルバーガーの定義では、「過剰な投機の崩落を原因とする、株・不動産・商品など資産価値の下落、自国通貨価値の下落、および非金融企業、地方財政、金融業、債務国の金融的な困窮」を意味し、これらの現象は景気循環のあらゆる局面で発生します。例えばこのとき単発的な銀行取付のような事態が起きても、「金融当局が政策的な誤りを犯さないのであれば、本来、金融危機は短期的な現象であり、公衆の追加的な通貨への需要が緩和されれば危機は自然と終息する」(シュウォーツ談)ものです。


 いまのサブプライム騒動はまだこの段階とみるのが妥当ではないでしょうか。そして日銀まわりの認識は違うようですが、それ以外のFRBなど中央銀行の対応は、流動性リスクへの対応を初期段階でしっかりやるという確固たる方針をしめして、流動性の追加供給にも機動的です。


 しかしもしsvnseedさんが懸念するように、リフレ派的なこの種の智恵が無視されるならば、シュウォーツは2)の真の金融危機に陥ると警告しています。金融当局が初期の段階で、健全な債務者への貸付けや預金者への流動性需要について確固たる方策を示すことに失敗してしまう。そうなるとたとえ中央銀行のような最後の貸し手や預金保険制度が表向きは機能していても、公衆の信頼がなければ、銀行取付けが連鎖して金融制度の健全性は著しく損なわれてしまう。


 このとき真の金融危機によってマクロ的な経済変動が激しくなったとき(例えばデフレ不況の発生)にどうするか? それにモデル的な説明をしたのが、僕と藪下先生の共著論文だったわけで、その解答は、マネタリーベースの増加、公衆がデフレ期待をもたないような期待をコントロールすること、のふたつでした。金融危機という現象についてだけでしたが、ここで期待のコントロールという発想がでてきたことが後にインタゲを支持する土壌になりました。また今度でる野口旭さんたちとの共著(19日以降に書店に出ます)では、僕らのモデルと基本構造はほぼ同じなモデルで浅田統一郎先生がインタゲの理論モデルを説明していることからも、金融危機による負債デフレモデルとインフレターゲットモデルが類縁性をもつのがわかっていただけると思います。


 ところでバーナンキFRB議長が最近、自らの信用理論の回顧をしていますが、これは結構重要な政治的メッセージであると思います。なぜなら上記のふたつの金融危機とそれへの対応を歴史的な分析と理論的な分析で示したものを説明していました。さすがに議長も「サブプライムで擬似金融危機が起きても即時対応をする」とわざわざ金融危機発生を前提にした発言はしないでしょうが、事実上はそういうメッセージを込めていたのかもしれません。あまり注目されてませんでしたが。

*1:ですのでfinalventさんに反応しなくちゃいけなかったのは、bewaadさんより僕なのかも 笑。しかしbewaadさんの整理はわかりやすいなあ。あとfinalventさんの指摘はある意味であたっていて、それは日本の経済系ブロガーは株価の世界的同時変動に一喜一憂しないという奥ゆかしい特性をもっていて、米国の経済系ブロガーがそれこそ株価やちょっとした経済データの変動に目くじらたてて祭り状態のごとく政策論議をぶちかますのに比べると、あまりに冷静すぎるのです。これって一般的にはちょっとわかりにくいんじゃないか、と思い、半月前ぐらいでしたか、僕も米国経済系ブロガーにまけないで脊髄反射をしなくちゃいけないと考えなおしていたものです。とはいえ私的なお盆休みでアッキーと会ってラッキーとかおやじギャグをとばしていたときに起きると脊髄反射できませなんだ