驚いた、というのが読後感。エモット氏はさておき、タスカ氏はこれは細部での意見の相違はあるもののほとんど主張の中核がリフレ的発想そのもの。
たぶん僕のこの素朴な(ナイーブな)感想には濃い反論が玄人筋から予想されるが 笑 少なくともこの著作に限定すればタスカ氏のような影響力の強い人がインフレターゲット論者であることは喜ぶべきことだと思います*1。なおかつ成長路線(財務省的な財政再建急進w主義への反対かつ成長過程での財政赤字改善政策の採用)であり、東アジア共同体的発想(より限定すれば中国への深いコミット)に反対し、さらに90年代は政策の失敗のアブノーマルな長期停滞であったと総括する(タスカ氏はインタゲを採用していれば失われた10年はもっと短いものになったろう、と指摘しています)ところなどは、まったく違和感なく読めました。
- 作者: ビル・エモット,ピーター・タスカ
- 出版社/メーカー: 講談社インターナショナル
- 発売日: 2007/03/01
- メディア: 単行本
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エモット氏の方がグローバル化による未熟練労働者の経済的地位の下降など構造的要因を重視するのに対して、タスカ氏の方は需要サイドの問題を中期的な視点まで含めて重視しています。ただエモット氏もタスカ氏もともに財務省などの財政危機説に依拠する消費税増税路線やそれに基づく反成長路線を厳しく批判している点では共通の立場をとっています。
特に興味深いのはタスカ氏の予測に関わる部分です。為替市場では中期的には円高になり、しかもそれはアメリカ経済の減速をうけた保護主義の台頭による円高要求であること、また日銀が利上げをすれば株式市場は打撃をうけてるだろうと具体的な数字をあげて警告しています。これはかなりタイムリーかも 笑。
「アメリカが景気後退期に入り、人民元が切り上げられたら、日本経済も減速するのは間違いありません。人民元が切り上げられたらおそらく円高になります。つまり、アメリカの景気後退、中国の景気後退、それに円高というトリプル・パンチです。そうなるのは2007年の後半以降のことだと思いますが、日本経済を取り巻く環境が予想以上に恵まれていたこの数年とは大きく異なっているはずです」(タスカ発言、77頁)。
簡単にいうとなんとなく中川秀直、なんとなくゴールデンサイクル という感じでしょうか? タスカ氏の思いっきりのよい発言に比べるとエモット氏が守勢にまわってる印象で、この本の主人公を自ずと決めている印象です。