書評:小島寛之『エコロジストのための経済学』

週刊東洋経済』に掲載されたもの

小島寛之『エコロジストのための経済学』東洋経済新報社

 今日、ほとんどの人が環境問題に関心をもっているだろう。地球温暖化、大気汚染など連日のようにメディアで報道され検証が加えられている。本書は「一億総エコロジスト時代」にふさわしい経済学の立場からのエコロジー環境学)入門といえる。
著者は環境問題が複雑なのはそれが経済問題という側面をもつからだと指摘している。例えば水俣病のケースは、チッソ株式会社が海中投機した工業廃棄物を原因とする公害であった。だがチッソ水俣の基盤産業であったことで、事実が隠蔽されてしまい水俣病の拡大を招き、水俣市民同士の対立にさえ発展してしまった。このような複雑なケースでは従来の経済学の適用は困難な場合が多いと著者は指摘する。本書では性急に実践的な提案をするのではなく、経済学の教科書にあるような代表的な対策を入門レベルから説明していき複雑な事例に一歩一歩迫っていく。
本書を読むことで読者は知らずに経済学の基本的な思考方法を見につけることが可能である。そして複雑な事例には、試行錯誤を繰り返しながら一歩一歩改良を進めていく「工学的」な方法論が重要であること、また複雑な利害関係に直面した場合に、従来の経済学が前提にしたような代表的な主体の厚生を基準にして経済政策の当否を判断するのではなく、むしろ汚染量の直接の削減に目をむけるべきだとする。
さらに地球温暖化のように、二酸化炭素の排出規制が地球温暖化防止に役立つのか不確実なケースでも、本書では「備えあれば憂いなし」とでもいうべき機会損失最小化基準を提唱して予防的な対策の必要性を主張している。本書ではケインズ経済学や新古典派経済学は損な役回りを演じているがそこを割り引いて読めば多くのものを読者は得ることができるだろう。

エコロジストのための経済学

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