岩田規久男、片岡剛士ほか「なぜ、いま超円高なのですか?」in『CIRCUS』11月号

 岩田先生と片岡さんが、「なぜいまの日本は超円高なのか? 答え:日本銀行の政策の責任」、という点をめぐってわかりやすい解説をしています。図表も多くこの記事はいいですね。

 なぜ日本銀行総裁はじめ、インフレ目標のような明確な政策をとらないで、いつまでたってもデフレと円高傾向を放置するのでしょうか? その答えを岩田先生は日本銀行の幹部たちの金銭的インセンティブに焦点をあてて解説しています(もちろんこれ以外にも既得観念の影響も大きいでしょう)。

「どうしてそれほどまでにインフレ目標の採用を拒むのか。それは、自らインフレ目標の数値を示せば、達成できなかったときに責任を問われることになるからです。要するにクビになりなくないんですね。なにしろ、米連邦準備理事会(FRB)議長でさえ年間報酬が約1600万円なのに、日銀は総裁で約3400万円、審議委員でも約2700万円。責任を取らざるを得ない状況に陥って、そういう破格の待遇を手放したくないわけです。つまり、わが国の中央銀行を司る者たちは、国の行く末など案じておらず、勝ち逃げできればいいという考えなのです」。

 さらにマスコミや経済学会へのポストなどの配分という「エサ」によって、日銀シンパが形成されたり、まじめな??マスコミでさえも、縦割り的な取材の弊害で次第に日銀発の情報をうのみにする実態などにもコメントされています。

 片岡さんはさらにミクロ的な視点から日本企業が超円高でどのくらい経済的な被害をうけるかを、企業のコスト面、さらに消費者の購買力の低下などから詳細にコメントしています。

 コンビニで買えますのでぜひお読みください。円高問題には最適な入門です。あ、片岡さんのそのあとのあとにいる人の記事は華麗にスルー推奨 笑

財政危機に関するメモ(IMFのチャート&麻木久仁子「ニッポン政策研究所」など)

 Twitterで集めた財政危機に関する情報を以下に。

 まず各国の財政状況をIMFがチャート化。非常に便利。グロスとネットの累積債務やそのGDPとの比率なども掲載。
 http://t.co/fze4cRR1

 TBSラジオ「ニッポン政策研究所「どうやって財政を再建するべきか」Part1×飯田泰之さんの回をTwitterでつぶやいたものを以下に。内容のまとめにしたつもり。サイトはこちら→ http://t.co/mjDssM8Q

 財政再建3つの視点 1)1000兆円のグロス借金、2)プライマリー赤字、65兆―40兆=25兆の毎年借金。3)毎年1兆円増える社会保障費の問題が本丸。3つはそれぞれ解決策違う。いっしょくたにして危機感煽るの間違い。

 ギリシャと同じになるか? 日本アメリカイギリスはギリシャにならない国。円で借りて円で返すから。円刷ればいい。つまりギリシャ型破たんではなく、財政危機がきたら日本アメリカイギリスはインフレ型財政危機になる。
 格付け会社批判。日本国債の格付けは宣伝、深刻にとるな。ほとんど格付け会社の宣伝に日本国債の格付け利用されてるだけ。
 インフレを過度に嫌う日本の国民性。しかし、ケインズの発言。インフレ→株価上昇→企業恩恵。デフレは現金保有者だけ得。デフレはチャレンジャーに大損になる。
 インフレに適度のインフレ必要。日本では財政破たん論者としてくくられるロゴフもインフレの効用説いている。
 また日本国債の所有者ほぼ日本人。償還は日本人同士の資産の移動。ギリシャとはここも違う。国債償還をみてみると、現役世代から老齢世代(国債保有者)にお金を移動することにほかならない。
 累積債務問題の核心は、老齢世代や資産家に富の移転を意味する。ところでこの累積債務問題はあんまり問題じゃない.

「ウォール街占拠」関連私的メモ

Twitterリツイートしてきたのを集めたり新規でも集めたり。自分の勉強用メモ。

wikipediaの項目
http://en.wikipedia.org/wiki/Occupy_Wall_Street

ウォール街のデモ、参加者が数千人規模に
http://jp.wsj.com/US/node_320171

The Wall Street Occupiers and the Democratic Party - Robert Reich
http://robertreich.org/post/11158838569

アイケングリーン電話コメント
An interview with me on Australian Radio covering the Wall Street Protests, financial reform in the US, and Europe: http://tinyurl.com/3k7voao

英誌『エコノミスト』政治論説:Occupy Wall Street:Stepping out, not sure where you're going yet
http://www.economist.com/blogs/democracyinamerica/2011/10/occupy-wall-street?fsrc=scn/tw/te/bl/steppingoutnotsurewheregoing

アメリカの若者がデモをしても就職できる3つの理由:冷泉彰彦
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20111007-00000302-newsweek-bus_all

ブランチャードのコメント
Video: The chief economist of the IMF on macroeconomics, inflation targets and why Wall Street matters http://econ.st/pqJwem

スティグリッツのデモ参加の模様

タイラー・コーエン『大停滞』

 いまの米国経済の停滞は実はかなり前から始まっていたんだよ、これからも「容易に収穫できる果実」は見当たらないないので米国経済は長い困難を体験するかもしれない、という主張のコーエンの新作。

 容易に収穫できる果実は、教育、イノベーション、未教育の賢い子どもたち。これらの果実はすでに40年前から入手困難であり、また雇用への影響をみれば10年前から雇用増に直結するような「景気回復」がないことからもうかがいしれる。またインターネットの効果もいまは観測するのが難しいレベル。

 コーエンの指摘で面白いのは、イノベーションの最近の特徴への次の指摘。

「近年のイノベーションの多くは、「公共財」ではなく「私的財」の性格を帯びていると言えるだろう。今日のイノベーションはえてして、経済的・政治的な既得権を強化し、ロビー活動によって政府の支援を引出し、ときには知的財産権の保護を過剰に求め、万人が用いるのではなく一部の人しか用いない商品を生み出している。毎シーズンごとに発表される高級ブランドの新作のハンドバックをイメージすれば、理解しやすいだろう。略 過去10年を振り返ると、一部にきわめて豊かな人たちがいるが、その層の所得のかなりの部分は金融イノベーションによって得られたもので、ふつうの人たちはその恩恵を受けていない、と言えるだろう」(42−3頁)。

 イノベーションの性格の変容とその減速が、所得格差に大きく貢献しているのではないか、というのがコーエンの主張。それが今日の「大停滞」の背後にあるという。

 このようなコーエンのイノベーション悲観論については、本書の解説で若田部昌澄さんが丁寧に反論や保留をいくつかの論文や資料を提示しているのでぜひ読まれるべきでしょう。

 またコーエンの主張は、景気の落ち込みには金融政策を割り当てるという点はあるものの、基本的には大停滞=構造要因説なので、景気の落ち込みを本当に解決できるのは、新世代の登場とイノベーションのみになる。この点について、コーエンは日本を大停滞のよく経験者とみなしているが、それは僕には単に事実誤認に思える。この点をめぐっても解説をかかれた若田部さんが直接、コーエンとこの大停滞の解釈を日本にも即して交わした意見が掲載されているので読まれると役にたつと思う。

大停滞

大停滞