対アメリカ従属為替レート政策?−いつもながらの日銀理論(財務省のサポートつき)−

 米国などで金融面の対応あれば、日銀の追加緩和あり得る=野田財務相
 http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-22764320110818
 
 という記事、 財務省の中尾武彦財務官は18日午前、日銀本店に中曽宏国際担当理事と会談という情報(わざわざマスコミにこの会談を宣伝しているのもちょっと苦笑)とあわせると、要するに日本銀行財務省の協調的な為替介入+金融緩和は、アメリカの金融政策次第であり、現状の円高がすすむ可能性はまたもや「注視」するだけということでしょうね。

 いまの円高が自然に収束するか、このままの水準で定常化して、新しい高めの失業(これは日本銀行財務省的には管轄外なので無視されてますが、もちろん国民目線では重視すべき問題ですよ)と高めの倒産率との組み合わせに、日本社会が耐えるのを織り込み済みになるのを、彼らは期待しているということでしょう。

 本当にどこまで日本経済をダメにすれば気が済むんだろうか。

田原総一郎、談論爆発! ゲスト:馬淵澄夫 前国土交通相

ニコ生でタイムシフト放映中です
http://live.nicovideo.jp/watch/lv59896808

はじめてデフレ脱却に金融政策が重要であるという話を田原氏が途中遮らずに聞いているのを目撃しました 笑。前半部分に、馬淵さんが丁寧に、「失われた20年」のうち、特に98年からの金融政策の失敗の継続が問題であることを指摘し、量的緩和政策をより積極的に行うことなど、日本銀行への政策がデフレ脱却、景気回復の最重要課題であることを、非常にわかりやすく説明しています。

もちろん復興政策、財政再建などについても議論しています。きわめて明瞭な議論が馬淵さん自身の言葉で語られていてますね。

金子洋一議員の白川方明日本銀行総裁への質問(金子洋一メールマガジン始まる)

 金子さんが白川日銀総裁に国会で質問をしました。ややテクニカルな話もふくまれますが、簡単にいうと、景気が悪化しているときに、日本銀行が金融緩和をするのは当たり前ですが、それを恣意的な制限をもうけて積極的にやらない(=日本銀行の立場)、それを問題視しているのが、金子さんです。なぜ日本銀行がそのような恣意的な制限をもうけているのか、それはたぶん本人たちでさえよく理由はわかっていないと思います。なぜなら前例で決まっているから踏襲しているだけなのです。まっとうな理由がないために、さまざまな細かい言いわけをあげていくのが官僚的な話術の特徴ですが、そのココロは「いまと同じやり方で非常時も変えずにいきたい(だって変えるとまわりの人間関係失うから)」というものだと思います。

金子洋一さんのホームページhttp://blog.guts-kaneko.com/2011/08/post_572.phpからの国会質疑を以下にコピペ

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金子洋一君 まず一点、銀行券ルール、今最後のお答えにありました銀行券ルール以外の分も長期国債を購入しておられるということなんですが、じゃ、その残高がどのくらいかと申しますと、これ一・三兆円にすぎないんですね。銀行券ルールというのは八十兆円を上限にということでありますので、一・三兆円分出しましたと、しかも合計をしても六十一兆円、六十二兆円にすぎません。あと十八兆円、銀行券ルールの天井まであるわけです。そうなりますと、銀行券ルールを見直したとおっしゃるその表現はいささか羊頭狗肉の類いではないかと私は思います。

 さらにもう一点ですが、まさにそのリーマン・ショックの後の対応を我々は日本銀行にも求めているわけです。米国もそしてイギリスも、リーマン・ショック後にどおんとバランスシートを拡大をした。それを我が国はやっていないから、先ほどお話を申し上げましたけれども、円高が大変急速に進む。だから、それを我が国でもやりましょうと。これは、この財金委員会の中でも同僚議員が何回も何回も日本銀行に対してお尋ねをしているところです。

 どうしてそれをやっていただけないのか。バランスシートを拡大をして、それでもし弊害があったとすれば、それは我々がやってくださいとお願いをしたんですから、政治の責任になるわけです。今のままですと、バランスシート拡大しません、しませんということになりますと、この十三年、日銀法改正以降ずっと続いているデフレ、これは日本銀行の完全に責任ですよと言われても、これは答えられないんじゃないかと思います。

 バランスシートを是非拡大すべきだと思いますが、この点について簡潔に御所見をお願いします。

参考人白川方明君) 簡潔にということで申し上げますと、日本銀行は極めて潤沢に資金を供給しております。

 その上で、少し簡潔でない部分になってまいりますけれども、日本銀行は、今議員が御指摘のリーマン・ショックが起こる以前から、リーマン・ショック後にほかの中央銀行が展開したのと同じような規模の金融緩和を既に実行しておりました。つまり、リーマン・ショックの前からそれだけの潤沢な資金供給を行い、さらに、この数年間の変化という面でも、日本銀行は潤沢な資金供給に努めております。

 先般、包括的な金融緩和の下で、更に基金の総額を四十兆円から五十兆円に増額していまして、これは着実に潤沢な資金供給にも努めておるところでございます。

○金子洋一君 そろそろ時間がなくなってまいりましたので一言申し上げますけれども、総裁の今のお話、GDP比で大きいんだというようなお話をいただいておりますけれども、それは貨幣の流通速度を無視すればそういうことになる。つまり、日本というのはデフレで、資金の巡りが悪いわけです。資金の巡りが元々悪いところに、いや、それはほかの国よりは資金たくさん出していますといっても、それは全然説明にも何もなっていません。変化率で見なきゃ駄目です。二〇〇八年の九月以前と比較をしてどれだけバランスシートを拡大させたのかと、その変化率が我が国は全く劣っているし、ですから緊急時に有事の対応ができていないということになるわけです。

 どうかその点をお考えをいただきたいということを強調させていただきまして、私からの質疑は終了させていただきます。

この質疑について、金子さんは直近のメールマガジンで以下のように書いています。

日銀が設定している銀行券ルールでの長期国債保有残高の上限は日銀券の総発行残高である
約80兆円です。日銀は今、約62兆円の長期国債を引き受けていますが、銀行券ルールの上限
までは、まだ18兆円もあるのです。これ以上の円高を防ぐためには、長期国債の買い切り
オペレーションを中心に、銀行券ルールにはとらわれることなく、ルールを超えてでも大規模な
量的金融緩和策を打ち出すべきでしょう。言い方を変えれば、日銀のバランスシート(貸借
対照表)を拡大する必要があるのです。

私からは、上記のような指摘をさせていただいたのですが、白川総裁は「日本銀行は潤沢な
資金供給に努めている」の一点張りで、議論はかみ合いませんでした。

日銀は、金融システムが不安定になりそうになると迅速に対応しますが、それ以外の国内産業が
不況にあえいでいてもきわめて緩慢にしか反応しません。これは例えば米国の中央銀行にあたる
FRBとはまったく違う点です。米国では、景気悪化に対応するのは第一に中央銀行の仕事です。
これまで日銀がやるべき仕事をやってこなかったことが、10年以上続いているデフレの最大の
原因だと私は考えています。円高の克服は、日銀が多くの資産をマーケットから購入することに
よって直ぐにでも可能です。なぜそれをしないのでしょうか。日銀にいわせると「物価が上がる
から」というのですが、このデフレの最中に物価上昇を恐れても仕方がありません。

今、我々は韓国、台湾、中華人民共和国といったアジアの新興国と競争しなければなりません。
韓国などは、ドル以上に人為的にウォン安政策を進め、輸出を増やしています。韓国は、EUと
自由貿易協定を結び、液晶テレビなどの関税を撤廃し、10%、時には20%以上にものぼる関税を
課せられている日本製品は欧州で急速に価格的な競争力を失ってきております。

まったく正論だと思います。ただ白川総裁もかなり追い込められているようで、以前のようなわけのわからない詭弁(直接引き受けやってるんだかいないんだかをあいまいにする逃げ口上とか)は控えめになってきているようです。ここでもひたすら「潤沢な資金提供」という文言だけで切り抜けようとしていて、後がありません。本当は後をつけるための言いわけならば、官僚ですからごまんとできるのを、ここでは後々言質をとられないために、バカのひとつ覚えのように「潤沢な資金提供」で逃げをうっているところや、また他の審議委員の微温的な態度を考えると、これは面白い姿勢のシフトがあるように思いますね。まあ、この組織は毎度こうやって追いつめられてくる(政治的な変わり目にそういう姿勢をとりやすい)とこのような発言をわりというのですが、また今回もか、という感じです。

 ともあれ金子さんのメールマガジンは最近は熟読の対象ですのでぜひ皆さんも登録をされてはどうでしょうか。

林敏彦『大災害の経済学』

 阪神淡路大震災について一貫してテーマにしてきた経済学者の実証ベースの本。僕も林氏の書いたものは、自分の発言のベースとして利用させてもらってきただけにこの新書の発表は嬉しい。ただ多くの部分は、阪神淡路大震災に関してすでに発表してきた論文・報告書に加筆修正したものからなる。また本書の前半は、阪神淡路大震災を契機にしてどのように法制度が変化してきたか、そして現状ではどのような法制度が重要なものかの基本的な災害対応の説明が詳細に書かれていて、たぶんかなり読み手のハードルを高くしてしまっている。もちろん実際に政策ベースで考えるとこの日本の災害関係の法制度をよく知っておかないとまずいのでそれはそれで貴重な貢献になっている。

 とりあえず、この本でいま僕の一番の関心は最後部にある第11章と12章である。僕は今回の大震災に関連する被害額の推計については、林氏のものを支持してきた(直接的な人的被害を含めた約34兆円、ただし震災直後に僕が参照した日経経済教室の段階では20兆円)。さらに僕と上念司さんや岩田先生や高橋洋一さんたちもそうだと思うが、政府と日銀がこれからもデフレ不況を放置した場合には、持続的な人的「被害」がきわめて深刻であり、これも震災を契機とした損失の中に含めるべきだと考えている。

 さて林氏の経済被害の推定に関する記述は第11章にあるのだが、まずベルギーの災害疫学研究所のデーターベースEM-DATの経済被害の定義から、地域経済に対する直接(例えば社会資本、収穫物、住宅など)および間接的(例えば売上の減少、失業、市場混乱など)の影響をわけている。

 林氏は直接被害の推計の困難を指摘している。例えば毀損した資本ストックの価値額として、1)ストック滅失分の時価評価か、2)再建費用、いずれをとるかで大きく異なる。例えば、民間企業のケース(非課税の減価償却費の蓄積あり)、公的資本ストック(例:道路では減価償却を公会計では行わず)、個人の住宅(減価償却しているのは少数)。このとき民間は1)、公会計ケースでは2)、個人の住宅では2)が一般的に望ましい推計根拠になるかもしれない。

「また阪神・淡路大震災のときには、資本ストックの滅失額として、そのストックの時価評価額(推定)に毀損率を掛け合わせて合計した数字が使われた。したがってこの被害推定は、再建費用の面から見れば、明らかに過小評価だったと言えよう」。

 また米国は死者・負傷者の人的資本の額も推計されるが、日本ではしていない。

 さらに地方自治体(被災した県レベル)では被害額の推計方式もバラバラであり、また国への要求ベースなため過大評価の部分と無視されている部分(宮城、岩手、茨城などではライフライン設備や民間資本の滅失額は算定されていない)が混在している。

 間接被害については、資本ストックの間接被害額の推計について理論的な困難を林氏は指摘して、あとは注目すべきなのは以下の文言であろう。

「県内総生産や市内総生産で見るかぎり、災害による落ち込みは一年程度で終わり。その後数年は復興需要で拡大が続く。顕著になっていくのは、間接被害そのものより、むしろ復興格差の問題である」。

 ただEM-DATの間接被害の定義だと、失業、売上の減少、市場混乱(例えば風評被害などであろうか?)であり、林氏のように不動産価格の市場価値の間接被害として例示して論じることが、間接被害問題の中心的論点とするのが妥当だろうか? 

  林氏の被害額の推定は、人的被害と経済被害との関係を統計的に推定することによっている。その結果、公共施設(土木施設や農林水産施設)だけではなく、民間ストックの滅失分を含めて推定するというものである。林推定では、約33兆円である。

 またこれには原発事故の被害推定として、林氏は福島原発第1、第二から30キロ圏内になる南相馬市いわき市田村市双葉郡の6町2村、相馬郡飯館村の域内総生産を約1兆円。それが10年間失われたとして10兆円という想定をしている。これは著者も認めているように強い仮定かもしれない。

 最終章では、復興構想会議への懸念が表明されているが、もっと強い懸念でもいいのではないか、と僕は思う。事実上、増税目的の会議であり、この会議の結論をまって予算策定という(ゆえに補正予算も遅れる)という本末転倒の会議なのだから。

大災害の経済学 (PHP新書)

大災害の経済学 (PHP新書)