蒲焼の匂い:日経公社債情報(賃金の下方硬直性の消滅という日銀流理論についての記事を読む)

 最強の業界誌『日経公社債情報』の注目リフレ記事をお伝えするコーナーです。今回は初登場? ドラゴンさんの「日銀ウオッチ:ゼロインフレ下での利上げ 「賃下げなき社会」崩壊迫る」が読ませます。デフレの深化によって賃金の下方硬直性に衝突することで失業が生じるというメカニズムがありますが、この賃金の下方硬直性が消滅したと日本銀行に認識されている可能性がある、とドラゴンさんは書いています。


 この賃金の下方硬直性がもはや日本にはないから、ゼロインフレ(もしくはデフレ)の下でも、なんらかのショックが襲った場合に雇用面ではなんのコストも発生させずにこのショックに対応可能だと日本銀行は信じているかもしれない、それゆえそのことが諸外国が1〜2%のインフレ下限を採用しているのにもかかわらず、ゼロインフレ(あるいは実質デフレ)支持する日銀の特殊性を明らかにしている、という指摘を行っています。


 もちろんこの賃金の下方硬直性が消えたのかどうかさえも大きな問題ですし、仮に消えなかかったとしてゼロインフレもしくはデフレを放置すればそれは社会の構造を金融政策で無理やり変えることになるだろう、という指摘です。


 ところで賃金の下方硬直性がないという日銀の評価になった90年代末から00年代にかけての状況を皆さん思い出してほしいのですが、リストラの増加、長期失業の増加、そして経済苦での自殺の累増など、それが仮に「賃金の下方硬直性が存在しなくなった(あるいは存在させなくさせる)世界」の姿だったとしたら、それはすでにまともな政策論争さえも超越した社会悪そのものを組織防衛から守護する姿に思えます。


 この問題については、当ブログでの大竹文雄ーモリタク論争のエントリーを思い出していただきたいのですが、仮に賃金の下方硬直性がなくても、これはドラゴンさんも指摘していますが、名目金利の非負制約は存在し、デフレやゼロインフレが社会生活に損失を与えなくなることはありません。

(補足)今までの蒲焼の匂いは、などにあります。

 Todd G.BuchholzのNew Ideas from Dead Economists(改訂版)

 初版は邦訳もでて、『テラスで読む経済学物語』(日本経済新聞社、上原一男・若田部昌澄訳)ででておりまして、私も訳書は出版されたときに訳者から献本いただいた思い出の本でした。それが10数年ぶりに新版として登場しています。すべての章に新情報が付加されてまして、読みやすい英語で書かれています。10数年前に訳書を読んだときにはほとんどスルーしていた公共選択論の章などが今回は最も興味深く読めました(まだこの章と新序文だけで、あとはペラペラ流し見ただけですが)。

 新序文には、1)ソ連邦の崩壊と「クローニー資本主義」と化した現在のロシア経済からの教訓(市場化がルール不在のときは私的独占(独占よりも専横がいいでしょう)など社会が停滞するという教訓)、2)アメリカの復活と日本の停滞(規制緩和の成功と失敗、という後者は日本の例で「産業空洞化」論や国際的競争論からの視点で僕からはちょっと採用できない見方ですが、他方で財政・金融政策の失敗もきちんと取り上げてます)、3)中国経済の成功と将来の課題(高齢化社会の到来への懸念)が書かれています。

New Ideas from Dead Economists: An Introduction to Modern Economic Thought

New Ideas from Dead Economists: An Introduction to Modern Economic Thought

テラスで読む経済学物語

テラスで読む経済学物語


 ランズバーグの本を紹介したら広告で本とかDVDとかでちょびっとエッチな画像がでてしまい職場でみれないだろう、という要望?をいただきましたので本の感想書いた上で後日工夫して再掲示しますね(^^;)