日本銀行、現状維持


金融経済月報(基本的見解1)(2007年4月)http://www.boj.or.jp/type/release/teiki/gp/gp0704.htmを拝見しますと、僕からみると実質的なデフレが持続し(石油関連除く、CPI上方バイアスの残存など)、さらにコアCPIをただみてもゼロ近傍を弱含みで推移しています。そのため日銀のいままでそして今後の利上げスタンスの理由は何かがやはり注目点です。この「基本的見解」ではその理由は以下です。


:物価の先行きについて、国内企業物価は、国際商品市況の下げ止まりに伴い、目先、横ばい圏内の動きになるとみられる。消費者物価の前年比は、目先、原油価格反落の影響が残ることなどからゼロ%近傍で推移するとみられるが、より長い目でみると、マクロ的な需給ギャップが需要超過方向で推移していく中、プラス基調を続けていくと予想される。:(赤字は田中)


 昨日のフィナンシャル・タイムズの論説とマッカラム氏の発言についてのエントリーhttp://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20070409#p3をみていただければわかりますが、日銀の需給ギャップの見解については議論も多いこと、また日銀以外の立場での需給ギャップの判断(オークン法則での計測など)もまた議論の多いことは良く知られています。つまり確固とした共通認識が難しい問題なわけです。そのような議論の多い理論的概念を用いて独断的に今後の物価予測を立てることはきわめて危ういものだと思います*1。むしろコアCPIでもいいですから、この素の物価動向をみた上で、デフレ脱却を判断し、国際的に物価安定(デフレに陥ったり、高インフレになる危険性のない)の基準ともいえる1%以上になってからでも、金融引き締め*2をそんなにぜがひでもしたいならば十分に間に合うでしょう(そもそも1%になった段階では遅すぎて高インフレのリスクに直面するという話も現状ですでに需給ギャッププラスであるという判断に依拠しているのは上記の引用からも一部明白です)。日銀の現在のスタンスは「独断的である」こと以外に意味がわからないのですが……。

*1:この日銀の独断的な需給ギャップ認識を公の場で議論しようという中川秀直自民党幹事長らの主張はその意味で意義のあることだと思います

*2:日銀流金利正常化

 『Voice』5月号:若田部昌澄・山形浩生論説、『経済セミナー』若田部氏の連載開始


 毎月おなじみの連載を読みました。山形論説「オリンピックに経済効果はない」はオリンピックの経済効果は疑わしい、経済効果棚上げにしてもやる意義もあんまりみあたらない、おまけに東京が開催地になる可能性もないんじゃないか、とオリンピック東京誘致への憂慮を表明したもの。なおオリンピックではないけれども類似の大規模スポーツイベント(W杯)の経済効果について僕も『AERA』に去年書きました(下に再録)。


 若田部論説「またも不可解な日銀の行動」は、アメリカの住宅市場発の金融危機をめぐる現在のFRBの対応への高い評価、その一方での先月2月の利上げに代表される日本銀行の期待インフレ率の低迷の軽視・景気踊り場での利上げスタンスへの批判などが内容となっていて、今日の政策決定会合の報道をみるかぎり、なぜ物価が上昇基調なのかまったく理解に苦しむ総裁の発言を聞くにつけ(詳細はあとで記者会見録を見ます)不可解さは増すばかりです。

 なお若田部さんは『経済セミナー』で今月号から連載「失敗に学ぶマクロ経済政策」を開始してまして、これまた非常に興味のあるテーマが並んでおります。今回は「失敗の経済学」の展望と今後の構成です。毎号楽しみですね。