ヒッグス『重農学派』(住谷一彦訳)

松崎蔵之助『経済大観』が1902年で日本では初めての本格的なケネー研究だったと書いた。ついでなのでそれ以前の国際的なケネー研究については、ヒッグス『重農学派』(原書刊行1897年)とその参考文献がいい。重農学派の研究は、重農学派への当時の批判者、アダム・スミスマルクス、そして経済学史的にはジェボンズ、ロッシャー、オンケンらが名前を思い出すことができるが、ヒッグスの本ではさらにさまざまな著作が挙げられている。国際的なケネー研究に日本がどのように位置にいたのかを知る上でもいい。

 

また個人的には、住谷悦治を訳したものに手をいれて1957年に訳書をだした住谷一彦先生の訳者あとがきが興味深い。父親の宿題を終わらせただけでなく、他方で本人が本書を訳した背景には、日本の農業問題に関する山田盛太郎的な関心があったことがわかる。

 

ヒッグスについては英語のwikipediaがまず現状はいい

Henry Higgs - Wikipedia

ケインズが『人物評伝』でヒッグスについて書いている。昔読んだが記憶にあまり残っていないw。

 

Amazon.co.jp: 重農学派 (社会科学ゼミナール 16) : ヒッグス, 住谷 一彦: 本

 

論説「マイナス金利解除検討 利上げを喜ぶ「日銀応援団」の面々」を『夕刊フジ』に寄稿

毎週寄稿している『夕刊フジ』「ニュースの裏表」は、今週に行うのではないかとリーク(苦笑)されているかもしれない日銀のマイナス金利解除についてです。おそらく先々週の終わりくらいから今月にマイナス金利解除があるのではとの憶測が高まっていて、そのルートがどうもいつものリーク筋でしたから一種の地ならしとしてみてました(先週のおは寺でも詳しく話したので参照のこと)。さて実際はどうなのかは、火曜のお昼にはわかるでしょう。いまの日本経済の状況をみれば、マイナス金利解除は金融政策の効果を著しく減退させ、日本経済の先行きに重しを政策当局が自ら加えることになります。そういった観点から記事は書きました。

【ニュース裏表 田中秀臣】「マイナス金利解除」検討と利上げ喜ぶ「日銀応援団」の面々 植田総裁の〝個人の思い込み〟が国民を経済的に苦しめる(1/2ページ) - zakzak:夕刊フジ公式サイト

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水田洋『ある精神の軌跡』と林達夫

数年前に大塚金之助の詩歌についての論説を書いた。その時に、水田洋先生がその半生記である『ある精神の軌跡』で大塚の人物をかなり批判的に言及していることを知った。実は論説を書いたときには読んでなかったので、いつか読もうかと思い今日まで経ってしまった。最近、水田洋先生を追悼した中澤信彦先生の論説を読んだことと、また社会思想史の研究史を振り返る必要があったので、その意味でも水田先生のこの半生の記は必読と、ようやく通読した。

 

中澤先生の論説は以下

NAKAZAWA,Nobuhiko. Hiroshi Mizuta (1919-2023): A Life in Search of the Origin of Democracy. Revue d'Histoire de la Pensée Economique (Classiques Garnier). 2023. 16. 15-22

『ある精神の軌跡』は、大塚の人格批判的なとこよりも興味を持ったのは、山田雄三=ミュルダール批判を通じての水田先生の自然法を通じての社会改革の「担い手」への注目や、またルカーチへの着目、さらに学生時代に読んだ林達夫『思想の運命』『文芸復興』『社会史的思想史ー中世』の三冊に深い影響を受けられたところである。

「思想史の基礎訓練を与えてくれたのは、林の三冊の著書であり、それらは、思想史というものが、ひとすじ縄ではいけないこと、表通りではなく、「いくつも裏通りがあること、それだからおそろしくもありおもしろくもあることを、教えてくれた」(126頁)、とある。

 実は僕もその「いくつも裏通り」があることを、林達夫の『思想の運命』(中公文庫)を福原嘉一郎先生の教養ゼミの輪読で知った。思想史、歴史の面白さを知ったのはその時が初めてである。一時期は林達夫の論説をそれこそ熟読したものである。年代は半世紀ほど違うけどw、なんだか共通していて嬉しかった(笑。

 

ちなみに先に書いた、関心のあるひとつの方向で、日本の社会思想史の研究史があると書いたが、それについてもこの林達夫の論説「社会史的社会思想史ー中世」は重要だろう。もちろん水田先生の社会思想史の研究への影響を通じてだが。林の論説は国会図書館でも読めるので以下をどうぞ。

社会史的思想史 - 国立国会図書館デジタルコレクション

 

水田先生の社会思想史は、代表作『社会思想小史』などで読めるが、史とあるがこれは現状の社会問題への改革を意識した思想史であることがポイントだろう。そのため常に現状の問題を含めて何度か小史が改訂され、そのたびに分厚くなっている。社会思想史といわれるものの多くは現状改革を視座にいれた思想史である。この社会思想史の特長分類は、高島善哉・水田洋・平田清明『社会思想史概論』の冒頭にある。

 

なお林達夫については、最近では、    落合勝人氏が『林達夫 編集者の精神』(岩波書房)を書いていて、その中に『社会史的社会思想史』を扱っている節があるみたいだ。機会があれば読む必要がある。

論説「日経平均株価急騰の経済学」in『電気と工事』2024年4月号(連載第151回)

月刊『電気と工事』での連載151回目は、最近までの日経平均の急騰について書きました。ぜひ店頭・図書館などでご一読ください。もちろん買ってもいいんですよw。

入稿したのはひと月ほど前ですが、日銀のマイナス金利解除の可能性と株価との関係を書いてます。植田日銀をいっさい信頼してないからです。知ってる人は知ってるでしょうけど、去年のYCC修正から一貫してます。

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