朝日新聞「秋の読書特集」(森永卓郎選)

 う、しまった。読み落としていた。川原和子さんにメールで教えていただく。森永卓郎モリタク)先生の「貧困と格差社会を生き抜くための全集」で第2巻に野口旭さんとの共著で僕の処女作である『構造改革論の誤解』(東洋経済新報社)がとりあげられていました。どうもモリタク先生ありがとうございます。川原さんもお知らせありがとうございました。

 モリタク先生の構造改革への手厳しい視点に沿って10冊の本が選ばれています。かなり面白い選出で、斉藤貴男氏の『機会不平等』と並んで僕らの本が、第一巻、第二巻として、「第1巻と第2巻が予言した構造改革がもたらす差別社会は現実となった」とあります。斉藤氏の本や、雨宮処凛氏、湯浅誠氏と並ぶのはある意味新鮮です(笑)。一番面白かったのは、本田透さんの『萌える男』も一緒だったことでしょうか。個人的に僕は本田氏の著作は好きですw。

 確かに僕らの本では、構造改革が日本の長期不況を解決するものでもなんでもなく、総需要不足がその不況を永続化させている元凶でした。そのため構造改革の誤った実施がかえって問題を悪化させる可能性を示唆しました。この意味での構造改革を僕らは「構造改革主義」と表現したのでした。

 モリタク先生の要約の通り、
「第2巻も構造改革論を経済学の立場から批判している。「改革なくして景気回復なし」「日本的システムこそ構造問題」「不良債権処理が不況を止める」「日本的雇用システムが不況の原因」。構造改革論者が、常に主張する4つの議論を、経済学の立場から否定する。不況の原因は構造改革の停滞ではなく、景気対策が取られていないことだった」というのが内容でした。いまだにこの延長で僕らは議論を展開しているといえるでしょう。

 ついでですが、景気対策を主眼にすれる点では、前もかいてますが、僕は麻生政権は構造改革中心の政権よりも格段にましな政権で期待もしているのですが(もちろんほかの政権、政党でも景気主眼であれば同じく応援しますよ)、この『構造改革論の誤解』のときと同じく、長期不況(今回の不況局面もその一部分です)を解決するキーは、財政の拡大ではなく、金融緩和政策である、ということだと思います。その発想がないかぎり麻生政権の経済政策には懐疑の眼を向けざるをえません。ところで日銀も利下げしましたが、今後はどうなるのか? ぜひ政府と日銀が協調して徹底的な金融緩和へのコミットをしてほしいと思うのですが……。

 いずれにせよ、森永卓郎先生どうもありがとうございました。

構造改革論の誤解

構造改革論の誤解

麻生首相、前言撤回??

 景気回復してから上げるんだそうです。というか、消費税のことは忘れるべき、景気回復には全然関係ないもの

 消費税引き上げ、麻生首相「景気回復が前提」と軌道修正
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081031-00000553-san-pol

 しかしまさに政府の財政政策の信頼性ほとんどなし 笑

可否同数、議長採決で日本銀行0.2%利下げへ

http://www.boj.or.jp/type/release/adhoc/k081031.pdf

 今日はいろいろ「興奮」するよね 笑。タイポで2.0%引き下げと書いてしまった(汗。票の動向をみると、執行部+野田委員が賛成。あの執行部の三人がまとまるのはまあ必然として、野田委員は景気弱気派とでもいうべき存在でしたっけ? まあ、投票行動の分析はプロにまかせますが。この薄氷の?票決でわかったことがひとつだけあり、「リーク」が日銀から本当にあった可能性が大きいということでしょう。こんな薄氷?の票決を「確定事項」で報道できるわけないでしょう。総裁記者会見が楽しみですね。

90年代の財政政策と麻生政権の経済政策

 山形さんは興奮してますが… 
http://cruel.org/other/rumors2008_2.html#item2008103101

僕もスティグリッツ&フェルドシュタイン&山形案を麻生政権の目指すところと考えたこともありましたが、金融政策なきままの財政政策など考えるうちにストレスが強くなりすぎますねえ。ですんでそのときのエントリーにも参照させてるけれども望ましい財政政策ってやはり金融政策との連動がないと無理。

 「将来の税負担と現在の財政拡大」のリンクをちょんぎる方法が要になるんですよね。そのちょんぎるのに金融政策が必要(別な方法としては日銀には静かにしてもらった上で 笑 政府が事実上の金融政策を行うという政府通貨政策もありますが)。

 フェルドシュタイン案が、まったくだめとは言い切れないけれども理論と過去の経験に照らせばほとんど百害ありそうで効果あんましなさそう、というのが妥当じゃないでしょうか?

 90年代の真ん中で一時的減税→消費税アップ という組合せがありました。バーナンキはかって日本の90年代において、停滞を脱出するために財政政策が数度試みられたことを考察しています。その上でそれらの財政政策の効果がきわめて限定的だったことを指摘していました。

 その限定的になった理由はこのブログでも昨日書いたばかりですが、現時点で財政を拡大させると、将来の増税を避けられないと考える国民は、減税や補助金で名目所得が一時的に増えても、それを将来の増税に備えて貯蓄してしまい、現時点の消費に回さなくなるー「リカードの等価命題」がバーナンキは90年代の日本にあてはまるとしていました。

 そこでさきほどの90年代真ん中にあった94、95,96年の三年間の一時減税→97年消費税アップがどんな影響を及ぼしたかをみる必要があります。このケースはちょうど三年間というのが奇しくもだか財務省の語呂合わせ?だか知りませんが今回の三年間減税で三年後消費税増税というのとまったく同じですね。

 清水谷さんの本がこの時期の展望にはすぐれています。

 94年の一時減税は、今回の麻生政権の減税先行・増税三年後政策を考えるときのまさに完全なる財務省的プロトタイプです。思い出すだけにこれは本当に笑える。たぶん財務省の連中は本当に何も考えてないかたまたまなのか、よほど国民の健忘症をバカにしてる!といいたくなるほどですが。

 いやいやあまりの諧謔?に、つい興奮してしまいましたが。このときの政権は細川内閣。で、中高年は憶えてますよね? あの夜遅い時間にいきなり、細川首相が国民福祉税構想を発表したことを。このとき6兆円規模の所得税・住民税減税の先行と三年後に「国民福祉税」として消費税を3%から7%にアップするという案を出しました。

 もちろんこれ大問題を引起してやがて連立政権の空中分解を招くのですが、とりあえずその年の9月には消費税を97年に5%に引き上げ、減税の先行実施という政府の基本方針が確定しました。この段階で強いコミットが形成されたといっていいでしょう。実際に94年度以降、97年までこの時点で決まった減税+増税の組合せで財政政策は動いていくわけです。ちなみに94年は一時減税ショーを含む最大規模の財政政策、いわゆる「総合経済対策」(グオー!ネーミングまで今回と同じだ! 本当に悪い冗談か?w)が行われた。この「総合経済対策」は、総額15兆2500億円規模であり、またこれを超える一時的減税ショーは以後みられなかった。

 95年も円高・株安がさらに進行しその対策として減税方針が再度確認・実施され、さらに97年からの消費税増税も再度強く確認された。94-96年の減税へ定率減税方式であった。詳細な実証分析は清水谷さんの本を参照すべきです(90年代のこの時期に清水谷さんはバーナンキと同様にリカードの等価命題が成立していて、減税の効果がほとんどなかったとしています)。ただここでは生のデータからいえることとして、この時期の実質家計可処分所得の伸び率は減少傾向で、94年から95年にかけてマイナスになり、96年に若干のプラスになったままそれ以降はほぼゼロ%水準で90年代を終える。家計最終消費支出伸び率は94,95年とバブル崩壊以降の低水準を維持し、96年にわずかに増加し(駆け込み需要は97年の同伸び率を一-3月期に2.5%増、しかし4―6月期は反動でマイナス4%へ)、97年はマイナスに大きく落ち込み、以降0%付近を90年代続ける。この97年こそ「失われた10年」の最大のショックが待ち構えていた年でした。

 リカード等価命題からは、この97年の増税は予期されていたのだから家計への影響はほとんどないように思えるかもしれませんが、消費税増税以外にも医療費値上げ、公共事業の橋本政権による足枷、そしてなによりもこの時期の金融政策は事実上の実質金利の高止まりが深刻だった時期でもあります(マネーサプライの歴史的大低迷)。つまり金融政策ないまま財政政策だけやっても過去の教訓からいうと百害あって一利あるかどうか不明……orz

(補)もちろんリカード等価命題は自然法則ではないからw人々の行動原理が変化してればどうなるかはわからない。変わりましたか? ぼくらの経済的行動原理は?

(追記)山形さんが興奮している、と書いたけど、僕も興奮した。改めて調べてみて、麻生政権の「総合経済対策」が、94年の「総合経済対策」のコンセプトをそのまま引き継いだものだということにだけど 笑。

ポケモンカードで読み解くサブプライムローン問題

 hicksianさんのエントリー:14歳の妹に金融危機発生のメカニズムを説明してみる
 http://d.hatena.ne.jp/Hicksian/20081031#p1

 :私がお金を返せなくてもその時は50ドルのリザードンがお兄ちゃんのものになるからでしょ。だから私にお金貸したら10ドルの儲けを得るか(=妹がちゃんと返済の約束を守って利子を10ドルつけて借りたお金を返した場合)、最悪でもお兄ちゃんが私に貸した50ドル分は担保のリザードンがあるから保証されることになる。みんながポケモンはダメダメだと考えるようなことがなければ(=リザードンの価値が25ドルに下がらずに50ドルのままであれば)、お兄ちゃんが損をすることはない。:

 ところがみんながポケモンがダメダメと考えたから大事に 笑。