辰巳ヨシヒロ(続)


 たんたんと読書経験中。『大発掘』を読む。冒頭の二作がわりと新奇な味。他は毎回同じテイストの劣情とヤケクソの劇画。そのうち『地獄の軍団』も届くと思ふ。

大発掘

大発掘

  

 劣情と不能のコミック:辰巳ヨシヒロ『大発見』ほか


 コメント欄でITOKさんが『大発見』に触れてましたが、同名タイトルの作品ほか「男一発」「グッドバイ」「いとしのモンキー」なども収録。アメリカアマゾンで第3(4)位を獲得した「東京うばすて山」もここに。この短編はあまりにもストレートに現代の楢山節考を描いたようにしか読めないけれどもやはりローアングル人生観炸裂。「やけ糞」で親を捨てる男の語り健在なり。ブーツ、脚フェチで、マゾで、偽善者wな初老の男を描いた「コツコツコツ」、オチが爆笑「大発見」などが劣情人生の魅力を発する。

 

大発見

大発見


 ついでに80〜90初年の作品を収録した『乾いた季節』全二巻、『コップの中の太陽』も読む。後者は『鳥葬』と同じ“劣情系”。主人公が定年まぎわ、あるいは若い工員など、が不能と劣情にとらわれる様を描く作品が多い。前者は後者にくらべると実にあっさりとした当時のワイドショー系のネタともいえるものが素材としてでてくる。
 

 頭も冷えますか靖国マンガ 辰巳ヨシヒロ「男一発」


 当ブログ梶ピエールさんのところでも話題になりましたエイドリアン・トミーネやアメリカのコミックに影響を静かに与えている辰巳ヨシヒロの作品をようやく読みました。中学生のときに立ち読みして以来の小学館文庫『鳥葬』(異色ロマン傑作選)。しかしこれはすごいね。ここに描かれているのは男女年齢さまざまに異なる人々だけれども「やけ糞!」という感じの人生模様を映像的に下劣に描いている(ここでトミーネと共鳴する)。あと暗闇が奥深い。どうしてもつげ義春と比較したくなるが、辰巳作品の描く暗闇の方がべっとり劣情的に深く哀しい。この傑作選は氏んでも嫁べきコミックであろうか。


 さて所収の「男一発」のあらましですが、職場でも家庭でも居場所がなくやがて定年を迎える男。定年後は10年もセックスレスでいまや娘たちと男の退職金の計算をするのが楽しみな妻との隠居生活が待っているがそれが地獄のように感じる男。彼は靖国神社を訪れ、「靖国の戦友よ 君たちはいいときに死んだよ わたしを見てくれ会社から見放され妻も信じられず……生きる屍だ」。そして彼は境内に鎮座ならぬチン座している大砲をみて、「まるで彼の若かりし頃の一物のように頼もしかった」、そして血のたぎるのを感じるのである。


 そして身もふたもないような決心を口にするのである。「男一発だ ドカーンと一発 どでかい浮気をしてやる」


 しかし「どでかい浮気」がなんなのかこの男にはまったく実はわからないのだ(いや、誰もどでかいのなんかわからないと思うが)。以下はこの男のどかーんと一発を目指した不発な風俗通いがはじまる(へそくりや退職金に手を出しながら煉獄めぐりをはじめるのである…


 そんな煉獄めぐりに似た風俗遊興もまったくドカーンとならないが、やがて「男一発」のまたとないチャンスが訪れる。職場の華(死語)ともいうべき美しく若いあこがれの女神OL(この形容すべて死語)が、彼をデートに誘い(恋人にふられてやけ糞になった職場の華死語OL)、安ホテルにしけこむのである。しかし彼はこの女神死語OLを抱いても「男不発」で終わり嘆き悲しむのである。


 「靖国神社の夜はかなしかった」


 境内の闇の中に横たわる巨砲に男は突然とびのり立ちションするところでこの劣情とやけ糞にみちた物語は終わる。


 この短編集のすべての作品が面白いが、特に「鳥葬」、「男一発」、「いとしのモンキー」、「シーツを敷く女」がいい。また昭和40年代の風俗が描かれてるのもいまになると興味深い。下水道掃除を描いている「うなぎ」など


 ちなみに「英語で!アニメ・マンガ」によるとAmazonが選ぶ2006年度の「コミックスグラフィックノベル・トップ10」の第4位というか3位に「東京うばすて山」が堂々ランクインということで、日本よりも国際的に再評価がすすんでいると思われる。当ブログも引き続き辰巳ヨシヒロネタを追う予定。

Abandon the Old in Tokyo

Abandon the Old in Tokyo

 増田悦佐イズムw、脱力アラン・ムーア、ジョージ・ルーカス


 さてここ半年ばかり、ワンダーウーマンの最新作を読んでから突然、アメコミ熱が冷めてしまい、その後に続々きた研究書、コミックそのものを積毒状態にしていた私ですが、いま最終段階の論文が終わったら少しだけ、ほんの少しだけお時間をいただいてコミックワールドに浸りたいと思っております。あとワンダーウーマン(これに熱中したのはそもそも増田悦佐氏がワンダーウーマンはマッチョな男そのもの、などと書かれたことに反論??すべく読み出したわけでわけすが)で脱力したというよりも、アラン・ムーアの新作だったLost Girls に完全脱力したせいでございます。

Lost Girls

Lost Girls

 このアラン・ムーアの新作はここの解説にもありますようにR-18ものに近い(いや、それほどとも)エロチックな奇怪作といえるものです。で、脱力したのは話がつまらないだけではなくw この本が本当に置き場所もないほどでかく、なおかつ重いものでして(経済系のみなさんにわかりやすくいいますと翻訳のあのスティグリッツの教科書三冊分の重さが一冊であります 汗)、アメコミ一般にいえますが、実に本棚に収まりが悪く不快なものでしたw。重くて脱力というのが真相でございます。まあ、ムーアファンは日本でも多いそうですがいったい何人の方がこの物好きな奇怪作を読まれたのか……w



 で、ぼーっとしてたらですね、このブログでもしばしばでてきますアメコミ論戦の一番の核心部分であった50年代のコード前のだと思うのですが、ECコミックの復刻がどどどんとついに出ました。やったー! なぜこんなにうれしいかといいますと、アメコミ論戦関係で研究書はかなり所有しているのですが、まさに規制対象?となったホラー、戦闘ものの現物をほとんどみていなかったからです。

Weird Science (The Ec Archives)

Weird Science (The Ec Archives)

 しかもこの復刻のSFものでしょうか、それにはなんとジョージ・ルーカスが序文をよせているではないですか。あいかわらず高価ですが(ーー;)

 リハビリ次第、またアメコミや日本のコミックやフランスのBDぐらいはフォローしていく所存ですw

 ワンダーウーマンが月に代わっておしおきよ?


 のはずはないが、Greg Rucka原作のワンダーウーマン一応大団円(続きがあってもフォローしていないオレがいるw


Wonder Woman: Mission's End

Wonder Woman: Mission's End


 増田悦佐本ではあまりなw評価でしたが、その信憑性を確かめるためだけに(僕も物好き)読んだワンダーウーマン物がアメコミのヒーローネタ関連ではもっとも個人的につぼにはいりまくり。

 この「最終話」も前後がよくわからないので、頭髪蛇女の復活やバットマンを足蹴にするエピソードも今回あわせて購入しますた。物好きですw。ついでに下みたいなまさに反増田本みたいな研究書まで出てましてこれも用意したので、そのうちワンダーウーマン祭りをブログではなくどこかで開く予定。ということでワンダーウーマン関係のミッションはとりあえず終了(^^)


Wonder Women: Feminisms and Superheroes

Wonder Women: Feminisms and Superheroes


しかしバットマンを土下座させ、スーパーマンとのガチンコでも事実上勝ち、さらにギリシャ神話の神々なぎ倒す…やりすぎw

 マウス


マウス―アウシュヴィッツを生きのびた父親の物語

マウス―アウシュヴィッツを生きのびた父親の物語


 スピーゲルマンの『マウス』1、2 を読む。今日は朝早くから群馬でオープンキャンパスなので出勤なのだが睡眠時間を削る結果に陥る。