蟹沢孝夫『ブラック企業、世にはばかる』

 「内定切り」「試用期間切り」や入社前の説明とは比較にならないほどの過酷な労働やまた大量採用サバイバル(新卒で大量採用して一年後ある一定数残存すればいいという人事方針=過酷な労働環境)など、 いわゆる「ブラック企業」、「グレー企業」という存在はある。

 本書では「肉食系ブラック職場「草食系ブラック職場」「グレーカラー職場」といくつかの職場の労働環境を区別して、それらが働く人の価値を毀損しているとし、その対策として解雇規制などの雇用の流動化を提唱している。著者の経験にもとづくいくつかのブラック企業の例は参考になる。

 よく僕も思うのだが、日本の企業はなぜデータをちゃんと持っているにもかかわらず、一年後、三年後などの離職率、平均在職年数、男女比の定着率などの基本データを学生や世間に対してちゃんと示さないのだろうか? 本書でもこの点は指摘されている。例えば東洋経済からでている『就職四季報』にはその種のデータがあるのだが多くの企業は非協力的である。データを保有しているにもかかわらずである。著者はこれを「情報の非対称性」の問題として指摘している。この「情報の非対称性」の存在のために就職する人は「搾取」同然の待遇に直面する可能性があるという。

 本書ではブラック企業対策が解雇規制緩和などの雇用の流動化政策に求められている。だが、ブラック企業の問題が「情報の非対称性」にあるとしたら、なぜそれが解雇規制緩和などの雇用の流動化政策なのだろうか? 正直、僕には理解できなかった。

ブラック企業、世にはばかる (光文社新書)

ブラック企業、世にはばかる (光文社新書)