David Small『Stitches』

 Stitches(編み縫い)は、昨年アメリカで評判になったコミックである。どの家族にもその家族なりの狂気が秘められている。子どもに愛情を示せない母親、それぞれの孤独(の音)に没頭する兄と父親。孫に対して狂気じみた態度を示す祖母。そして幼い頃から成人までをその家族によって精神的な迫害を受け続ける主人公。全編には「家族」というものが、この少年の首にできた腫瘍(実は癌)のようなものである、というトラウマの陰影に満ちた物語だ。

 作者の実際の記憶と当時の感情をベースにしていることが、最後の登場人物たちの実際の写真とその後の人生の解説によって、さらに生々しいものになっている。題名の意味はこの物語を読むことで知ってほしい。そしてどの狂気をはらんだ家族がそうであるように、その狂気の物語にもそれなりの結末が用意さている。家族は同時にその存在に苦しんだものに対して、一種のカタルシスを与えることがあることもこの物語は教えてくれる。

 個人的に非常に参考になる物語だ。最近読んだマンガの中ではベスト数冊に入る。英語も簡明なので大して時間をかけずに読むことができるだろう。

Stitches: A Memoir...

Stitches: A Memoir...