加速化する日銀総裁選出、やはり日銀総裁は重要である。


 最近の周辺状況から内閣改造見送り時点から急速に日銀総裁選出が、おそらく武藤副総裁を主軸に動いている気配が濃厚です。ところで知人の方に指摘された今日の日経新聞の武藤副総裁の発言がありましたのでご紹介。


武藤日銀副総裁、利下げ今は考えず――景気減速でも輸出と生産堅調

http://job.nikkei.co.jp/2009/contents/news/inews/nt21auto022/NIRKDB20080111NKM0085.html


内容は上のリンク先を読んでいただければわかるように、

 景気減速は一時的ショックであり輸出・生産は堅調で、利下げの環境ではなく、依然として経済が落着き次第利上げを行うべきである、とするものです。さらにこの認識を含めて今月の基本シナリオの策定で検討するとしているようです。


 ところで政策のフレーム(インフレターゲット)が設定されれば、現状のような裁量性の強い日銀総裁は適合しなくなり、総裁のキャラに左右されないという意味で「日銀総裁は重要ではない」という意見もありますが(『Voice』若田部さんの論説参照)、実際にはインタゲは「制約された裁量」という性格をもっていますから、やはり日銀総裁が誰になるのかは、インタゲ導入されても重要になるでしょう。すでに指摘しましたが、武藤副総裁の上記の認識(以下のエントリーにも書いた0%近傍病)や財務省の一部の宿業ともいえる国債長期金利上昇への極端な忌避感などが、かりに積極的な金融政策が総裁就任直後に採用されても安定的なリフレ状況にはいかないまま、またも不十分に終わる可能性が大きいでしょう。


 さらに「制約された裁量」の「裁量」部分が重要なのは、いまの日本経済が完全雇用状況に程遠いために緩やかなインフレを持続することで失業率の改善という目的も明示的に考慮する必要があるからです。そのため不十分な金融緩和は支持できません。


 まあ、これはあくまでもインタゲ採用されたらの話を書いてのですが、その可能性は新総裁のもとでどうなるかは不明です。


 ところで最初の武藤副総裁の発言をやや変化球で眺めると、与野党でおそらく調整がご本人を主軸にして(そう考えてもいいでしょう。各種報道の本命は武藤氏を名指ししてますし、本命を「官僚出身」ということで表向きは拒否している野党との調整がいまから必要なのはいうまでもないでしょう)行われていることは武藤氏ご本人も十分理解されているでしょうから、いまさら自分も責任を負っているいままでの日銀シナリオに誤りがありましたなんて、口が裂けてもいえないでしょう。したがって基本シナリオの今月末の改定も大幅な見直しはありえようもなく、あるとしたら以下のエントリーにもあるように「ゼロ%」の表現が入ることが日銀の至上命題ですから、百歩譲って、

「(深刻な不確実性を伴いながら)2008年度はゼロ%程度、2009年度はゼロ%台半ばの伸び率となると予想され」

になる程度でしょう。まあ、それこそ官僚文章の威力発揮でしょうから表現が見ものです。