スティグリッツの日本のデフレへの対処(おさらい)


 なんでも知人に聞いたら最近はスティグリッツが日本のデフレには金融政策が効果が無いといっているという「風聞」がネットで蔓延しているとか。しかしなんというデマなんだろうか。現実の世界ではおよそ通用しないデマだが、まあネットならではの暴論なので無視してもいいが、忙中閑あり(ありまくり? 笑)なので少しだけご紹介。


 このブログの過去エントリーにも多くのスティグリッツネタがあるけれども、ここは最新刊の『スティグリッツ教授の経済教室』(ダイヤモンド社)から。


スティグリッツ教授の経済教室―グローバル経済のトピックスを読み解く

スティグリッツ教授の経済教室―グローバル経済のトピックスを読み解く


「では、日本のデフレはどうすれば克服できるのか。日本政府が財政の不足分の一部を国債の発行ではなく紙幣を刷って賄うとしたらどうだろう。この新に刷られた円を受け取った個人や企業のなかには、使わずに預金する者もいるだろうが、使ってモノやサービスを購入する気になる者もいるはずで、それによって景気が刺激される。また預金が増えれば、過剰流動性を増やすだけの銀行もあるだろうが、貸出を増やしたほうがよいと判断する銀行もあるはずで、そうなると景気はさらに弾みがつくことになる」(邦訳59頁)。


「慎重にペース配分しながらこのプログラムを実行していけば、景気を上向かせるだけの総需要拡大を生み出し、デフレを反転させて好循環をスタートすることができるはずだ。物価が上れば債務者の返済の負担は軽くなり、その結果、彼らがもっとカネを使うようになるかもしれない。また、借入れを返済する債務者が増えることで、銀行も貸出を増やすかもしれない。略 もちろんインフレ恐怖症にかかっている人たちは、そのような政策はインフレ・スパイラルを招くのではないかと憂慮するだろう。しかし、そうした憂慮を裏付ける調査結果は一つもない。インフレ率が低い国や穏やかな国については、中央銀行が何を言おうと、インフレ率の緩やかな上昇が天井知らずのインフレにつながることはないのである」59頁。


 これでデフレには金融政策が役立たないというスティグリッツの日本のネットだけに蔓延する与太話は否定されますよね。これ読んでも納得しない人はもう経済語るのやめるか病院い…以下略。


 あとこれもネットだけに蔓延するスティグリッツの誤った解釈だけれども、スティグリッツインフレターゲットインフレ目標政策)に批判的だから、リフレ政策にも否定的という話。


 リフレ政策については上の引用をみればわかるようにスティグリッツは積極的に肯定。別にインフレターゲットのためにリフレ政策があるわけではなく、例えば僕の『経済論戦の読み方』(講談社現代新書)を読んでいただければわかるように、そこには財政・金融(インタゲ、量的緩和、政府通貨発行などなど)をはじめ、デフレ解消に「役立つ」リストが並んでいる。


経済論戦の読み方 (講談社現代新書)

経済論戦の読み方 (講談社現代新書)


 ネットの一部だけですよ、インタゲ否定したら即リフレ否定とか考えるの(笑)。


 そこをおさえた上で、スティグリッツはデフレ脱却のインタゲはよくて不確実であるといっています。その上で彼はデフレ脱却の経路として、1)信用のアベイラビリティ、2)長期実質金利 のふたつに影響を及ぼしてみることを考えて、スティグリッツは前者をより重視します(ネット的にはこの「より」というのが、他方を完全に否定する、という意味でとらえる二択脳が多いですが、両方とも有効と考えてより前者が有効という意味ですからお間違えないように 笑)。


 で、その信用のアベイラビリティに影響を与える政策として彼が主張しているのが先の政府通貨発行策*1。そのほかにもいくつもあるといってますが例えば不良債権のハードランディングではなく(これはかのザモデル案や日本銀行の優良な株の簿価買取なんかね)よりも潰れそうな銀行や企業に政府が資金をどかんと投入するようなりそな銀行救済やダイエー救済みたいなのがスティグリッツ的にはおすすめでしょう。


 後者の長期実質金利に影響を及ぼすほうとしては、インタゲはよくて不確実なので、彼は短期国債と長期国債の構成を変更すること、つまり長期国債買いオペを積極的にすすめてます。もちろんこれも政府通貨発行やインタゲ同様に日本のリフレ派もかなり初期から(僕の場合はデビュー作以来)主張してきたものです。で、こっちは信用のアベイラビリティよりも効果が小さいというのがスティグリッツの主張ですから、まさにこちらは大きく効果がでるように「どかっと」長期国債買いオペ超積極的にやればいいだけですね。他方で政府通貨発行の方はスティグリッツ的には効果がありまくりなので、上の引用のように「慎重なペース配分」が必要なわけです。


 こんなことでいいですかね。これでもまたスティグリッツはデフレは金融政策ではだめだとか、アンチリフレだとか、インタゲは無条件に完全否定だとか、そんな嘘っぱちいう人はネットでも相手にしないほうがいいでしょうね。



 それとこの日本版のスティグリッツの本は彼がここ数年だしたエッセイ集の中ではもっともいいかもしれませんね。


(補)そもそも「リフレ」というのはちゃんと意味があって「総需要不足が原因するデフレーション状態(=物価水準の持続的下落)を解消するために緩やかなインフレ状態に経済を移行させて経済の活性化を狙う政策の一群」であって、この政策の一群を裏付けるいろんな理論や思想はあるでしょうね。まあ、「リフレ」の意味もあやふやな感じで、ただ中傷するのに使う人いますよね。そういう人たちは、勝手な話をこしらえて悦に入っているようですから、まあある意味幸福でしょうかね? 笑

*1:引用をみればわかるように総需要拡大→デフレ反転→実質債務減少・貸出増加=信用のアベイラビリティへの影響→景気刺激 という経路なわけです