岡本裕一郎『ポストモダンの思想的根拠』


 これは面白い。ポストモダン論の俯瞰ができるだけではなく、経済政策や社会政策の合意をどう形成するかを考える上でも示唆に富む。


 本書の描く「ポストモダン社会」=自由な管理社会とは、


「−−現代のポストモダンでは、近代的な「規律社会」は終焉を迎えつつある。いま私たちが立ち会っているのは、人間の「動物的な生」に照準を定めた「生権力」であり、「剥き出しの生」をいかに管理するかである。それは、人々から危険を遠ざけ、安全・安心を保証するのだから、「セキュリティ社会」と呼ぶことができるだろう。この社会は自由の許容度が高く、ファッシズム的な全体主義とは区別されなければならない。人々が自由に生存しつつ、同時にセキュリティが維持される社会、それがポストモダン社会である」(49)。


 この自由管理社会をメンテナンスする原理として、この自由管理社会のルールを前提とする範囲で、著者はこの自由管理社会のメンテナンス(著者はそういわないが)を行うためには多様な意見を合意にもっていく必要があるとする。


 メンテナンスのための合意形成を、岡本氏は民主的統制(リベラルデモクラシー)の観点からどうおこなうべきか、という視座でローティーらの試みを紹介し、さらにラディカルデモクラシーの立場も紹介している。


 もちろん僕はメンテナンスのための合意形成原理としては、経済的統制(希少性への配慮)の観点もわすれるべきでないと思うが、その点については不満は残る。


 ところで自由管理社会への「批判」的視座なんだけど、「例えば自由管理社会のコードを書き換えることが、この自由管理社会のあり方そのものへの「批判」になることもあるんじゃないかなあ。例えば刑務所の福祉システムとしての利用とか。受刑者の管理が実は貧困者の「管理」になってしまうとか。ここらへん考えてみる余地はあるだろう。


ポストモダンの思想的根拠―9・11と管理社会

ポストモダンの思想的根拠―9・11と管理社会