インタラクティヴ読書ノート別館の別館ネタ


 稲葉さんとこの「インタラクティヴ読書ノート別館の別館」の下記エントリーに関連して、なぜか僕の方のコメント欄に何か書いてくれ、とのことなんですが、簡単に文献紹介ということで。

  http://d.hatena.ne.jp/shinichiroinaba/20070616/p1


 小林慶一郎氏の朝日論説とほぼ同じ趣旨を簡単にネットで読めるのは以下の論説

 「量的緩和政策とデフレ」http://www.rieti.go.jp/jp/papers/contribution/kobayashi/14.html


 この論説でもベースになっているAtkeson and Kehoe論説は下で、

 Atkeson, A. and P. Kehoe (2004). "Deflation and Depression: Is There an Empirical Link?" NBER Working Paper 10268.
 http://ideas.repec.org/p/fip/fedmsr/331.html

 この論文から小林氏は、単純にいうと1)デフレと不況はそんなに関係ないかも。2)フリードマン予想が成立する長期均衡状態としてデフレがある、などを利用しているぽい(実は小林氏の論説は長期的デフレを最適な状態とみなしているのか、それとも彼の論説の後半のように財政破綻含みの非最適?状態を意味しているのかが、よくわからない。ここらへんが稲葉さんとこのエントリーの最後と関連してると思ふ)。


 この二点について稲葉大人の示唆している理論的な反論は以下。


 価格硬直性を加味するとフリードマンルールは最適金融政策とはいえない論文

 http://ideas.repec.org/p/cpr/ceprdp/2942.html

 『経済セミナー』での同趣旨の高橋洋一論文もあり。


 デフレの社会厚生コストが甚大であるというオブストフェルド&アウエルバッハの論文がある。

 http://www.esri.go.jp/jp/workshop/030918/030918auerbach.pdf

 なおこれについては斎藤誠氏の彼なりの反論もあることを一応注記しておく。

 http://www.esri.go.jp/jp/workshop/030918/030918gaiyo.html

 さらに実証レベルでは、1)についての反証をBenhabibらが最近書いていて、

 http://ideas.repec.org/p/fip/fedfwp/2006-32.html

 これによればデフレを改善することが成長に寄与することがわかる。いいかえるとデフレと不況はかなり密接にリンクしているので小林論文の主張の核のひとつは支持しがたい。中央銀行当事者がデフレを極力避けるのは理論的にも実証的にも支持できることになる。あとbenhabibらの論文で戦後の経験の実証の限界を指摘しているけれども日本の90年代の経験におけるデフレのコストが明白なのは彼らも自明だと思っていると思います。