Paul A.Samuelson&William A.Barnett著 Inside the Economist's Mind: Conversations With Eminent Economists


Fellow Travelerさん経由。


 著名経済学者に著名経済学者がインタビューしていままでの研究の来歴や自分の業績への回顧・現時点での問題意識などを質問していくという企画のものです。インタビュー対象は、サミュエルソンフリードマン、コルナイ、ルーカス、サージェント、レオンチェフ、ボルカーらが並んでいます。インタビューアーもブランシャール、マッカラム、テイラーらの豪華布陣です。


 この種のIntellectual Historyとでも名づける経済学関連の本は多く、一部は翻訳されています。例えば、『マクロ経済学はどこまで進んだか : トップエコノミスト12人へのインタビュー』( B.スノードン,H.R.ヴェイン、東洋経済新報社)、『現代経済学の巨星 : 自らが語る人生哲学』( M.シェンバーグ 編、岩波書店)、The Makers of Modern Economics全四巻(Arnold Heertje編、Harvester Wheatsheaf)などです。


 ところでこのインタビュー集の中で僕が最も注目したのは、ロバート・ルーカスにベネット・マッカラムが2000年当時インタビューした箇所です。そこにはルーカスの柔軟な実践的な経済観というべきものが展開されていて興味深いものがありました。


 例えばマッカラムはRBCモデルが想定している技術的ショックですべての景気循環を説明できるのか、という問いに対して、ルーカスはまず「純粋な技術的なショック」というものはなく、ふたつのショックがあってひとつは政府の介入がなくとも市場が調整することで対応できるショックがあり、もうひとつは金融的対応で調整できるショックのふたつがある、と指摘します。その上で戦後のアメリカの景気循環問題は前者のショックの問題でありこれが景気循環問題の8割を占めるであろう、しかし戦前の大恐慌や最近のアジア危機下のインドネシア、それに90年代真ん中のメキシコの経済危機などは後者の事例である、と発言しています。


 いいかえれば、問題によって違う処方箋(もちろん違うモデル)が必要になる、という認識でしょう*1。その上で、過去に行った講義録(邦訳題名『マクロ経済学のフロンティア』)での景気循環による経済的損失の評価への批判(日本では吉川洋氏の『現代マクロ経済学』(創文社)のものが有名、海外では大恐慌に言及したトービンの逸話が著名でしょうか)に言及して、その過小評価であると批判されていることは多くが大恐慌を念頭においているようだが、あくまで戦後のアメリカの景気循環に即したものである、と発言しています。またルーカスは名目成長率ターゲットやインフレターゲットにも理解を示していることを述べています(ただ政策手段では議論の余地がありそうですが)。


 他にもボルカーやフリードマン、それに(最近取り組んでいるのは)ベタ?な歴史分析ですね?と突っ込まれているサージェントの受け答えなどが興味をひきました。


Inside the Economist's Mind: Conversations with Eminent Economists

Inside the Economist's Mind: Conversations with Eminent Economists


 なおルーカスはミルトン・フリードマンのシカゴ大での価格理論の講義に非常に影響を受けたと述べていることはいまの田中的には旬でした。なぜならそのうち公開しますが、いま密かに?フリードマンとスティグラーの価格理論を勝手に接合させるお暇なペーパーを準備中だからです 笑

*1:ちなみに日本によく散見する同じ現実に違うモデルで違い処方箋、と云う相対主義とは異なります