偽りのオーガズムの経済学

 というわけで偽りのオーガズム(あるいはエクスタシー)の経済学の紹介です。


 この分野の先駆者であるMialon氏(ミィヤロン氏でいいでしょうか?それともミィアロン?)も無事ジョブを確保されたようですばらしい業績の数々を連発する勢いですが、2004年初公開時に一部エコノミストと経済学マニアを感動させたあの名作がいまはこちらで読めます。元ネタだった彼の博士論文のほかの部分はほとんどが専門ジャーナルに掲載されるようですが、この歴史的文書だけはいまだ温存されているようです。


 2004年当時の反響
  T.コーエン
  「オーガズムの経済学」  http://www.marginalrevolution.com/marginalrevolution/2004/01/the_economics_o.html


  S.ラーンズバーグ
 「偽りのオーガズムの経済学」
http://www.slate.com/id/2097396/


 ミィヤロン氏の分析は、アダム(男)とイブ(女)がセックスについてのシグナリングゲームを行っていると解釈します。セックスによってエクスタシーに達しているかどうか、それが本当のエクスタシーのシグナルの場合もあるし、あるいは偽るシグナル(いわゆる「いったふり」)であるかもしれないことをたがいが知っているとします。一例としてアダムがイブが本当にエクスタシーを感じたか、あるいは偽りなのか確信がもてない状態を考えましょう。ミィヤロンは女性の方が男性よりも偽りのオーガズムの戦略をとることを指摘しています。


 特にイブがエクスタシーに達しやすい年齢的なピークが30歳前ぐらいであることをアダムは(イブも)予断として知っているために、イブがそのエクスタシーのピーク年齢から離れれば離れるほどアダムの疑心暗鬼はつのります。 イブは常に歓喜の声をあげますが、実際には本当のエクスタシー、偽のエクスタシーのふたつの戦略をとっています。アダムの戦略はまたふたつでして、ひとつはジェントルマン戦略(歓喜の声を本当のエクスタシーと信じる)、もうひとつは悲観主義者戦略(歓喜の声を嘘だと信じる)のいずれかを採用します*1


 ところでミィヤロン氏は偽りのエクスタシー均衡が、例えばイブがアダムを強烈に愛するが故に成立してしまうと論証してます。フランスの作家マグリット・デュラスの格言?を引いて、「一番愛した人をわたしは一番欺いた」(意訳)というわけです。


 詳細はミィヤロンのペーパーに譲りますが、疑い続けるアダムを愛しているゆえに偽りを繰り返すイヴの姿は、米国の実証研究とも適合すると氏は指摘しております。またピーク年齢から年が離れるほどその偽りのエクスタシーは採用されやすく、また女性のほうが男性よりもはるかに偽りのエクスタシーの戦略を採用しているとも紹介しております。氏の論文ではまさに女性イブの方が愛が深いゆえにそのような行為に走るわけであります。


 ソース元のthe 2000 Orgasm Survey では、72%の女性が少なくとも一回はいったふりをして、男性の55%が女性が偽りのエクスタシーだったのではと疑いを抱いたということも紹介されており、このミィヤロンの研究を裏付けます。

デュラスよ、偉大なり。


 日本ではどうでしょうか? 『モアリポート』とかあるみたいだけど実態は継続調査中。


このコーナー[アクティビティX]は以下の問題提起を引き継いだものです(コメント欄も参照ください)。
オーラルセックスの経済学http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20061107#p1
エル・ホディリの定理続きhttp://reflation.bblog.jp/entry/307151/


(付記)なおアクティビティXコーナー?はElleの遺跡に投稿しやすくなった段階であちらの方で新ネタ投稿する予定。かなりあるので驚いている自分がいる(ーー;)

*1:ミィヤロン氏の戦略名は多少違いますが修正しました