桐野夏生「尊厳を持って生きること、時代を書くということ」『POSSE』17号

 頂戴しました。どうもありがとうございます。今回は何よりも桐野夏生氏の登場に目がいきます。こっそり書きますが。いまから4,5年前にある学術系の雑誌で桐野さんに対談企画(今回とテーマは同じ貧困問題でした!)を出版社を通じて申し込んだことがありました。そのときはうまく調整できず企画が流れたので、今回のこのインタビューはなによりも羨望の対象です 笑。

 されはさておき、このインタビューには桐野さんがなぜいままで貧困をテーマのひとつにしてきたのか、その動機、さらに現代の日本の貧困問題ー特に貧困女子の問題ーをみているのか、それがどのように創作に結び付くのか、が率直に語られています。インタビューしているおふたりとの世代の違いも意識してか、ご自身の社会問題の関心がどのような時代背景で生まれたのかも含めて丁寧に説明していますね。

 「正規労働から外れた若い男の人たちが、メインストリームに乗れなくて、しかも偽装請負なんかでひどい収奪をされていくということがとても悲しかったです。これを見逃したらこの国はだめになる、本当に資本主義はここまできたんだ、みたいな感じでショックを受けましたから、『メタボラ』は、ぜひ書いてみようと思ったんです。その流れで、いますごく心配なのは、若い女の人の非正規雇用の問題です。下の階級を作れば必ず相対的に全体の条件が悪くなります。だからいま、若い男の人がだめだということはもうその下にいさせられている外国人や日本人の女の人がもっとだめというか、そういう状況に追いやられているのだと思います。劣悪な労働条件によって貧困に陥らざるをえない状況は本当に困ったことだと思います。一生貧困のままで暮らして、子供も産めない、何もできない、しない、では、家族が互いの収入を持ち寄って、みんなで固まって暮らすしかない。でも、親の世代がいなくなったら、若い人たちはさらに貧困に追いやられるでしょう。これは生活保護の問題にも発展していくんでしょうけれども」

POSSE vol.17: 生活保護はこう変えろ!

POSSE vol.17: 生活保護はこう変えろ!

桐野氏の作品で読んだものをいくつか。いまは『ナニカアル』を積ん読にしたまま。近いうち読もう。

残虐記 (新潮文庫)

残虐記 (新潮文庫)

東京島 (新潮文庫)

東京島 (新潮文庫)

メタボラ (文春文庫)

メタボラ (文春文庫)

はじめての文学 桐野夏生

はじめての文学 桐野夏生

竹中平蔵「「日銀との連携強化」は景気回復の必須条件」『VOICE』2013年2月号

 2月号の『VOICE』は面白そうな記事が多いですね(山形浩生さんのエッセイ、飯田泰之さん司会の国防軍関係の座談など)。いくつかは後日の紹介にまわして、ここでは安倍政権の当面の(僕的には最大のだが)金融政策における政府と日銀との連携について書かれた竹中氏の論説に目が向く。

 竹中氏は「解決する政策」を短期・中期・長期にわけて、「短期的にまずやらなければないことの一つは、やはりデフレの克服である」と冒頭で述べている。本論説はこのデフレ脱却のための上述した政府と日銀との連携強化、協定(アコード)の締結についてである。

 論説はかなり丁寧な構成になっている。デフレのおそろしさ、デフレがなぜ日本だけ続くのかその理由、そして自身が閣僚だったときの日銀が小泉政権末期にデフレ克服目前のときに金融引き締めに転じた顛末などを説明している。

 また日銀がインフレ目標を嫌い二つの理由として、1)責任をもたされること、2)日銀のバランスシートの拡大を嫌う「美学」などをあげ、それぞれを批判している。

 「安倍氏インフレ目標に少し言及しただけでマーケットが動いたことを見れば、“期待”がいかに重要かということがわかるだろう。この“期待”を本格化するためにも。新政権は日銀とアコードを結ぶという公約をきちんと果たすことが重要である」:

 政府の責任にも言及する一方で、内閣府の企業内失業の推計を紹介して、単純な試算ではいまの日本の真の失業率は11%になると紹介し、これでは経済格差が深刻化するのも無理はないとし、短期的な政策をまず実行し、「おかしな政策をやめることが不可欠」だと主張している。おかしな政策とは日本銀行のデフレ政策だろう。

NHK取材班編『日本人は何を考えてきたのか 大正編』

 昨年の夏にNHKEテレで放送された「人間復興の経済学ー河上肇と福田徳三」を含む大正編が書籍になりました。僕もこの中で登場しています。明治編はとても面白かったですが、僕らの大正編もかなり面白そうです。内橋克人氏の独特の反経済学的思想が最後にでてますが、そこはまあ割り引いて読まれることをおすすめします。

 ちなみに福田徳三が最後に格闘していたのは、3つの方向だと思います。市場社会の起源を先史時代までさかのぼり、それを「流通社会」という概念でくくろうとしたこと、二番目は厚生の経済学の方向、そして三番目は数理経済学の方向でした。人間復興の経済学を目指していたのでしょうが、その方向は経済学の間口を広げる、おそらく今日の新古典派的な制度経済学に近いものだったかもしれません。

日本人は何を考えてきたのか 大正編 「一等国」日本の岐路

日本人は何を考えてきたのか 大正編 「一等国」日本の岐路