これがインフレターゲットの説明?『R25』

 いやはや、驚いた。

「景気回復を狙い撃ち!?「インフレターゲット」って何?」という『R25』の記事

http://r25.yahoo.co.jp/fushigi/rxr_detail/?id=20100121-00001115-r25

 まずこの記事は、インフレターゲットそのものの説明よりも、池田信夫のコメントなどを利用し、このライターの「反インフレターゲット論者」論とでもいうべき内容になっている。

 インフレターゲット論者は他にも様々な方法でインフレを起こすことが可能だとしているが、今のところ決定打に欠けるようだ。また、野放図にお金が出回るようになると、政府が信用を失い、際限なく物価が上昇するハイパーインフレに陥る危険も。何もかもキレイさっぱり解決してくれる都合のいい魔法は存在しないのである。

 インフレターゲットは「何もかもキレイさっぱり解決してくれる都合のいい魔法」とはなんだろうか? このライター星野陽平なる人物のかかった魔法であろうか? インフレターゲットは経済主体のインフレ期待に影響を及ぼすものであり、「何もかもキレイさっぱり解決」する政策手段ではない。この星野が利用したレトリックは事実に反する単なる暴論である。

 さらに理論的可能性(現実的にはほとんどない)としては存在するデフレ不況から脱する過程でのハイパーインフレ(繰り返すが事実上あり得ないが)をまさに制御する点でインフレターゲットが有効であるという議論が一般的な解説だが、ここではなぜかインフレターゲットハイパーインフレを起こすことになるらしい。まさに驚くべき解釈である。

 さて池田のコメントをかりてはとりあえず注記ぽく「完全に」とことわった上で、「じつは実体経済におけるインフレ率を完全にコントロールする方法は、現状では存在しないという」と最後に書いている。ここらへんも読者に誤解を与える。あたりまえだが、「完全」な政策などどこにもない。あたかも「完全」な政策ではないからインフレターゲットはだめだ、と指摘しているかのようである。まさに誘導的な議論であろう。

 例えばインフレターゲットを採用している国がインフレのコントロール実体経済の安定化にかなり成功しているのはよく言及されていることである。一般的な解説を目指すなら通説を採用すべきであり、池田の実証もされていない独り言をもとに記述すべきではない。

 なお、インフレターゲット採用国のインフレと実体経済の成果が目覚ましいことについては、下の著作などに一般的な解説があるので参照されたい。他にも問題点がありまくりだが時間がもったいないので、読者にはこの記事を放棄し、インフレターゲットのバランスのとれた解説としても下の著作を読まれることを求めたい。

日本銀行は信用できるか (講談社現代新書)

日本銀行は信用できるか (講談社現代新書)

『ゼロ年代のすべて』

 最近は忙しくてブログの更新が御留守でしたがまた頑張って更新したいと思います。さて相変わらずの宇野的ワールドに染まった一冊ですが、とりあえずシノドス組(荻上チキ、飯田泰之芹沢一也)の「「選挙のあと」に読んでおけー2010年代の政治観察マニュアル」が一番重要でしょう。他の記事は僕はガイドブックとして読むことにしました。ただマンガがあまりにも偏っているような気がする。やはりマンガ、アニメ、テレビドラマ、音楽、映画とすべての分野をバランスよく網羅し、それを宇野氏が仕切るという構造自体に無理があって、これは抑えてるだろう、というものがないまま。彼がとりあえず観たもの読んだものが中心の企画という、まあ、そういう意味でのゼロ年代のサブカルの「網羅」にすぎないでしょう。例えば谷口悟朗氏へのインタビューはかなりかゆいところに手が届く仕様で、谷口氏の作品世界を観る上での最重要なテキストになっていますが、映画やマンガ(これらは僕もそこそこ詳しいので)は、基礎的なものを読んでない観てないのではないか、という可能性があるでしょう。まあ、それでも宇野ワールドに浸りたい人はそれでいいのでしょうけど。

 さて荻上さんたちの座談会ですが、 民主党でも他の政党でも、飯田さんがまとめてますが、「まずリフレ、そして規制緩和セーフティネットの両建てで問題に対応していかなければならない」ということに尽きるでしょう。しかしどの政党もなぜかこの図式を採用するところは(口ではいってても)実行するところはなし。特に日本銀行が事実上ノータッチのままなのはいまも相変わらずです。

 景気は着実に回復している(その予測は普遍)とか総裁はいっているが、それが本当ならば従来の日本銀行の見解(デフレは実体の悪化により貨幣的原因ではない)からすれば、先月のあわててやったデフレ対策はいったいなんなのか? これだけ分裂した見解に政府もマスコミも沈黙きめこんでいるとはよほどお気楽な身分といえます。