小林慶一郎・北野一・吉崎達彦:『論座』座談

 これは意外な拾い物。論座のここ数年で最もまともな座談会。その主役は北野氏であり、彼がどんな表情と雰囲気で語ったか知らないが、あきらかに小林氏と吉崎氏を手玉にとっているという感じ。小林氏は相変わらずの持論を展開していて彼の著作を何冊も読んでいる僕にはある意味わかり過ぎる。しかしこの吉崎氏ってどんな人なんだろうか? 正直にいえば、吉崎氏が何をいっているのか僕にはまったく理解できなかった。

(付記)エントリー書いてからはてなキーワードで吉崎氏のことを知った。しかし北野一氏や小林慶一郎氏のはないのか。まさにネットバイアスだね。

 北野氏の発言の要旨めいたものを以下に

1 現状の世界経済はそんなに深刻ではない。景気後退の真の引き金は金融引締めショック。いまは「危機」に過剰反応

2 米住宅価格も下げ止まりの様相。金融機関の損失も自己処理できる範囲が大きい。不良債権問題として深刻化するかどうかは、賃金・失業率・利払いの動向がかぎ

3 「過小評価されてますが、アメリカは何だかんだと言って3%金利を下げた。アメリカが震源地だ、危険だと言うけれども、当のアメリカはそれに対してかなりの刺激策をとり、きちんと効いてきつつある。むしろ、そうした刺激を与えていなかったヨーロッパやアジアのほうが懸念すべき状況になりつつありますよ。逆に聞きたいんですが、アメリカがダメだといわれるほどにドルは下がっていないのでは? なかなかに打たれ強いですよ(笑)」

以下、打つの疲れてきたので続く。

原田泰、河野龍太郎論説in『エコノミスト』

 仕事が累積しているけれども関連しそうなので購入・速読。

 岩井克人佐伯啓思佐和隆光氏らのは軽く流し読み。やはり技術的な点で面白そうなものにどうしても目がいく。その点では河野氏の論説が今回は注目。

 河野龍太郎「テイラー原則が採用されず金融緩和が世界に波及した」という題名だが、昨年夏のサブプライム危機の顕在化をうけてのFRB、ECB、日銀などの利下げ、利上げ中止に注目し、これが過度の金融緩和をもたらしているとするもの。日米欧ともに図表ではゼロからマイナスの実質利子率ですか(日本などはマイナス2近くですけども、そうかなあ。まったく話は逆で、むしろここ1,2年は事実上の金融引締めへの転換を日本が行っているだけで、いまもあいかわらずの不況を招く受動金融政策というのが日本のスタンスでしょうね。そもそもこの河野論説でいくと、日本はいまやインフレリスクが昂じててかなりの利上げが必要じゃないですか?)。

 テイラープリンシプル(インフレの変化に対する政策金利の反応係数1以上)が守られていないのは景気減速を怖れたから。それが新興国への資本流入(自国通貨高圧力)→自国通貨高を嫌い金融引締めできず→金融政策の目的変数に為替レートが入ってしまい、新興国景気過熱→エネルギー・食料品高へ。

 河野氏は今後のシナリオとして、新興国金利引締めスタンスの採用、景気減速などの新興国の経済過熱の終焉(これを指摘するエコノミストは最近、物凄くいる。一例では、松岡幹裕『日経ビジネス』、高田創『週刊東洋経済』の記事など)→エネルギー、食料品価格の修正へ。とのこと。

 原田さんの論説は岩井氏の論説と真逆。前者は投機が商品価格の安定に長期的に寄与する、後者は投機こそ経済を不安定化させるので政府系ファンドの役割重要、というもの。