『サブリナ』ニック ドルナソ (著),藤井 光 (翻訳)早川書房

不気味な作品である。表層的には現代のさまざまな病理的現象が組み込まれている。ネット社会の病理的な側面、マスコミの病理、新興宗教的なものの病理、職場での薄っぺらいつながりと手のひら返しの疎外、身勝手な愛情の病理、殺伐とした郊外と室内の光景、登場人物たちの総じての感情に乏しい表情はまるでムンク「叫び」の直前のように静かで、まさに不気味だ。そして失踪事件自体の謎。

 

しかも読者は気が付くだろう。自分たちが作品を読んでいるときに、いつの間にか「善人」の目線で物事をみていて、それが最終部ちかくでそれとなく破壊されてしまうことを。われわれ読者自身も不気味な存在なのである。

 

おそらく読むほどに発見がある作品だ。

 

 

サブリナ

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