2014年ノーベル経済学賞はジャン・ティロールに

 今年のノーベル経済学賞は、ジャン・ティロール(Jean Tirole)が受賞。
 ティロールの金融危機の経済学にはあまり感心しなかったが、彼のテキストは僕の大学院時代の定番だった。いまは知らないけど。それと米国の論者たちはフランス人であることに注目している(学位はMITだけど)。フランス人の受賞はモーリス・アレ以来みたい。

 Justin Wolfers氏が以下の図表で、ティロールはずっと下馬評の上位だったと注記している。この図表をみると日本人は清滝教授が最も可能性がある。おそらくMooreとの共同受賞とかそうなるのかと期待。一部ではすでに村上春樹状態(笑)といわれるほど日本人の経済学者たちには待望されてるけど、この図表をみるとまだまだ上には何人もいるね。


出典:Kellogg School and NU Economics faculty predict the 2012 Nobel Economics laureates

The Theory of Industrial Organization (MIT Press)

The Theory of Industrial Organization (MIT Press)

浜田宏一「冷戦後の防衛構造」&「日本の平和憲法の経済的帰結」

 日本国憲法第九条と日本国民にノーベル平和賞がくるかもというネタに関連して、浜田宏一先生の講演をふと思だした。

浜田宏一「日本の平和憲法の経済的帰結」
http://www.asiawide.or.jp/eps/symposium/s96/1-4.htm
このスピーチを補うやや理論&実証的なスピーチは以下。
浜田宏一「冷戦後の防衛構造ーー戦略的代替から戦略的補完へ」http://www.asiawide.or.jp/eps/symposium/s95/2-2.htm
冷戦前と冷戦後の戦略構造を示す図表が上記ではないので、後に単行本に収録されたものを利用して以下に利得行列だけ(一部ぼくが適宜修正して)掲載しておきます。

 防衛は国際公共財(非排除性&非競合性)をもつ財であり、冷戦構造のなかでは、米ソがその供給を大きく負担し、NATO諸国などはそれに「ただ乗り」していた。これを浜田先生は戦略的代替として説明した。
 例えば米国はソ連との対抗上、軍事支出は過大気味に負担する。ところがNATO諸国のような協働行動が必要な第1国と第2国はそれぞれが防衛責任を果たすとそれぞれが2の満足水準を得る。ところが相手国が防衛してくれるからいいや、とただ乗り戦略を採用すると(1,1)の利得の組合せになる。

冷戦前の戦略構造:戦略的代替囚人のジレンマ 公共財の過小供給

防衛責任 ただ乗り
防衛責任 (2,2) (1,3)
ただ乗り (3,1) (1,1)

さらに冷戦後の戦略構造を示す利得行列は以下に。お互いが軍縮が一番いいと思っていても、自分の国だけが軍縮をして相手が軍拡をするとまずいことになる。そこでお互いが軍拡を選んでしまう。

冷戦後の戦略構造:戦略的補完周辺国家同士の争いの可能性(昨日の味方がいつ敵となるかわからない)。囚人のジレンマ 

軍拡 軍縮
軍拡 (1,1) (3,0)
軍縮 (0,3) (2,2)

来世紀への軍縮と安全保障のプログラム―ECAAR第3回シンポジウム議事録

来世紀への軍縮と安全保障のプログラム―ECAAR第3回シンポジウム議事録

ネットでよくある“誤読”の一例(朝日新聞慰安婦問題関連)

 知人のITOKさんが言及していたこの人のブログを読んで、僕が言ってもいないことを書いているので唖然とした。本当にこういう嘘はやめてほしい。

http://alicewonder113.blog.fc2.com/blog-entry-61.html

田中秀臣氏に関しては社会保障に関しても見識があり良い意見をお持ちだと思うのですが…チャンネル桜は止めたと聞いたし…ただ朝日新聞従軍慰安婦強制連行誤報絡みで、朝日新聞をやたら嘲笑する感じなどはあまり好きではなかったり

チャンネル桜はやめたわけではなくお呼びがこないだけです(笑)。

 本題の方だけど「朝日新聞従軍慰安婦強制連行誤報絡みで、朝日新聞をやたら嘲笑する感じ」ってなんでしょうか? この人は以下の僕の発言が朝日新聞をこの件で嘲笑したように思えたのだろうか? もしそう読めたなら、率直にいって日本語の読解力に難があるし、そのレベルで他人の発言を批判的に言及するのはやめたほうがいい。最低限の論議の作法さえも有していない可能性があるので。

 僕はこの朝日新聞慰安婦問題についてTwitter(でしか発言していない。トークイベントや他の媒体でも一切ない)の発言は以下の通り。簡単にいうと、朝日新聞誤報は問題があるが、むしろそれをきっかけに過剰な批判を強める勢力への批判が主題である。以下、朝日新聞の当該の件にふれたすべてのコメントを時系列順に。

https://twitter.com/hidetomitanaka/status/507331854890831873

吉田証言問題は、朝日側にも硬直的な姿勢が問題だとは思うが、他方で朝日新聞全体への批判というかアクションというかは、まるで生活保護の不正受給問題でのアクションを見ているようだ。一部の問題で全体を全面否定。なんか煽られてるというかなんというか。ここ最近そういうパターン多いなあ。

https://twitter.com/hidetomitanaka/status/507332597626568704

僕も朝日新聞朝日新聞委員原真人氏の経済問題への発言など、ただ単なる悪質な間違いだと断定することに人後におちないけど、でもそれをもって「朝日廃刊せよ」とかそのためのアクションを煽るとかしないな。そういうアクションは容易に自分たちの擁護したり好むメディアへの攻撃に転用される。

https://twitter.com/hidetomitanaka/status/510066360135593986

朝日新聞慰安婦問題での謝罪や証が不十分である、という古館氏のコメントも同意するな。朝日の姿勢の不十分さの反映だと思うけど、朝日の記事が間違いなのを脳内拡張して、慰安婦問題自体の存在を否定する連中もいる。いまも知人のネットのコメント欄で「売春捏造ババア」とか酷いコメント読んだ。

https://twitter.com/hidetomitanaka/status/510077478363082752

@humahoshi @ITOKtw まあ、いまも1)何がいいたいのかわからない人たち、2)ともかく慰安婦全否定。または朝日廃刊などに疑問を呈した人は「あれな人」扱い 笑 と。やれやれな状況です。

https://twitter.com/hidetomitanaka/status/513128563071913984

まあ、リベラルの人たちは朝日新聞慰安婦報道で、事実上の「総崩れ」だものな。スコットランド独立ネタにでもすがっるしかない心境なのかもしれないけど。本当にリベラルの思考的退潮は深刻かもな。

https://twitter.com/hidetomitanaka/status/514047205200498690

なんかネットだと朝日新聞が明日にでも潰れるもしくは潰そうぜ、みたいな右派のノリノリ感があるけど、最近は「ネットの右派がはしゃぐときには落ち着け」という法則を採用しているので、まったく興味がなかったが朝日の経営や資産状況みたらとても優良じゃない。ま、いずれにせよ新聞とってないけど笑

https://twitter.com/hidetomitanaka/status/514048497335533569

星さんがフェイスブックで面白いことコメントしてて、慰安婦問題では安倍政権と朝日新聞は対立にあるけど、軽減税率や消費税増税では朝日は安倍政権を応援している。金銭面ではむしろがっちりとスクラム組んでるのが安倍政権と朝日含む主要メディア。その意味では「虚偽の対立」かもというもの。面白い

https://twitter.com/hidetomitanaka/status/519423639716769794

元朝日新聞記者が脅迫などをされたのをうけて著名人たちを中心に擁護する会みたいなのができたのかな? それをみたネット右派ぽい人が、「この人たちは山口二郎内田樹はじめみんなそれ系=左翼」みたいなことを言ってた。本当に党派でしか思考できない人が多い。機会があれば僕だって賛同するよ


https://twitter.com/hidetomitanaka/status/520551703167242240

朝日新聞慰安婦誤報問題に対する保守系メディアに掲載されてる論者、ネットでの保守系の匿名さんたちの発言を最近まめにみてる。彼ら彼女たちが批判しているとおぼしき中国や韓国の言論風景と大して変わらない。自分たちと違う価値観をもつものは徹底的に叩き排除(潰せ)する。この逆説戦前と似てる

以上だ。このアリスという人は自分の特定の価値判断で、どうも自分に都合のいいように、リフレ理論であれ、他人の発言であれ解釈する傾向が強いように上記のブログエントリーをみても思う。どのような私的動機でリフレに理解をしめすかは自由だが、リフレの実証的中味、そして他人を特に批判する際にはちゃんと相手が何をいっていたのかを正確に書かないでは、何を主張してもたいした成果はあがらないだろう。

ちなみに慰安婦問題については、まだ完読してないが、以下の本がよい感じでまとめられている。

慰安婦問題 (ちくま新書)

慰安婦問題 (ちくま新書)