文月悠光『洗礼ダイアリー』(ポプラ社)

 詩人の文月さんの最初のエッセイ集。他者のアイデンティティの押し売り(「詩人だから何々」とか「女子だから何々」など)に対する様々に抗う感情と理屈の起伏が激しく表現されていて、とても惹きこまれる。

 楽しんで読んだというのとはやはり少し違う。僕もそうだが、読む者たちにしばし立ち止まり、筆者の流れる(しかも「解」に向かってとは断言できない)思念に対して、「これは私と違う」と思うだろう。

 だが、頁を繰る手はとまらない。この読書は、すべての人は、自分とだいたい同じで、それでもかなり違うという当たり前の「事件」を体験することでもある。 文月さんのエッセイをもっと読みたいと思う。

洗礼ダイアリー

洗礼ダイアリー